イノベーションの成功確率を高めるには、そのプロセスに顕れる悪しき兆候を見逃さないようにすべきであるとマグレイスは語る。それらの多くは成功体験や高収益事業への固執に起因しているという。
多くの企業はイノベーションの取り組みを、意図せずしてみずから妨げている。先日、その症状を示す5つの兆候をコロンビア大学のメディアフォーラムで説明したが、ここに改めて紹介しよう。
1. 取り組みが長続きしない
映画で次のような情景を、誰もが観たことがあるだろう。組織のごく少数の人たちが、もっとイノベーションを進めよう、あるいは既存のものと異なるイノベーションを成し遂げようという情熱に駆られ、新たな取り組みを始める。若手や中堅の社員であれば、少人数のチームを編成し、典型的な部門の壁を乗り越えることに努め、新しいチャンスを見出すかもしれない。幹部クラスであれば、イノベーションへの衝動はスカンクワーク(特命チームによる極秘開発)、あるいは新たなベンチャー部門の立ち上げに結びつくかもしれない。しばらくの間、物事は滞りなく進む。興味深い発見をしたり、会社の能力を活かせるような新しい分野を見出すこともあるだろう。
ところが、こうした取り組みはたいてい頓挫する。後押しをしてくれていた幹部が異動になる、単にアイデアがうまくいかない、など理由はさまざまだ。結局のところ、イノベーションとは不確実なプロセスである。会社のキャッシュや収益が減少すれば、予算削減のターゲット探しが始まる。イノベーションの予算削減は簡単だ。将来の潜在顧客は、自分たちを魅了するであろう未知の製品の存在を知らないので、入手できなくても大騒ぎすることはない。こうしてイノベーションの取り組みは幕を閉じる。
もっと悲惨なのは、チームが実際にパワフルで画期的な発見を成し遂げたのに、上層部の誰かがこう考えてしまう場合だ――この発見は既存の高収益事業に対して破壊的なインパクトをもたらしたり、カニバリゼーションを招いたりする可能性がある、と。こうなるとイノベーターは追い詰められ、アイデアはお蔵入りだ。
では、どうすればいいのか。第1に、他の重要なプロセスと同様、イノベーションは管理可能であるということを覚えておこう。最初からやり直すということをしてはならない。再現可能なプロセスの構築を助けてくれる、優れたリソースがある。第2に、中止と再開を繰り返すような断続的な取り組みは、何もやらないより始末が悪いということを知るべきだ。このようなイノベーションは、従業員がキャリアを賭して取り組むには値しない。つまり、イノベーションの取り組みは継続的で体系的なものにする必要がある。通常とは別の予算枠を設けるべきだ。善良なる従業員のキャリア形成に貢献するものでなければならない。