企業の情報システムには大量のデータが蓄えられている。また、企業の外側にはソーシャル・メディアなどデータの海が広がっている。これらの中からビジネス価値を抽出できないかと、多くの企業がビッグデータ活用を検討している。では、価値を生むためにはどのような考え方、アプローチが必要だろうか。ビジネス・アナリティクスという領域を切り開いてきたSAS Institute(以下、SAS)の上席副社長兼最高マーケティング責任者(CMO)であるジム・デイビス氏に聞いた。
すべてのデータ取得は不可能。
どのようなデータを選択すべきか
――ビッグデータという言葉を頻繁に耳にしますが、そもそもビッグデータとはどのようなものでしょうか。
デイビス(敬称略。以下同) その定義は人ぞれぞれでしょう。SASとしてのとらえ方は、「従来のシステムでは処理し切れないほど大量かつ複雑なデータ」というものです。ビッグデータが注目される理由は、おそらく、処理し切れないことがビジネスの制約になっているからでしょう。たとえば、大量のデータ処理に時間がかかりすぎて、ビジネス現場で役に立たないといった課題があります。ただ、最近ではさまざまな技術進化により、その解決策も登場しています。従来のシステムでは扱えなかったビッグデータを、ビジネス価値に転換することができるようになったのです。

上席副社長兼最高マーケティング責任者(CMO)
ジム・デイビス氏
Jim Davis
アメリカ・ノースカロライナ州立大学でコンピュータ・サイエンスの学士号を取得。ソフトウェア開発会社などを経て1994年にSAS Instituteに入社。製品戦略担当ディレクター、ワールドワイド・マーケティング担当副社長などを経て現職。
――では、ビッグデータからビジネス価値を生み出すための方法とはどのようなものでしょうか。
デイビス まず取り組むべきことは、ビジネス課題の明確化です。それは企業によって異なります。顧客の購買行動を詳しく見たいという場合もあれば、リスクをスコアリングして厳格に管理したい企業もあります。金融機関などでは、不正取引を検知したいというケースもよくあります。こうした課題を定義したうえで、どのような手段が有効かを検討する。その手段としてビッグデータを活用できる分野は少なくありません。
――ビッグデータは手段であり、ビジネス上の目的に沿って活用されなければ意味がないということですね。
デイビス 目的意識は極めて重要です。以前よく目にした光景ですが、可能な限りあらゆるデータを集めたものの、何に使っていいのかわからないという企業がありました。今日、データはほとんど無限に存在しており、そのすべてを取得することは不可能です。したがって、目的を達成するためにどのようなデータが重要か、どのようなデータを収集すべきかを判断しなければなりません。それにはデータ・ガバナンス戦略が欠かせません。