「統合思考」や「デザイン思考」の提唱者マーティンは今回、暗礁に乗り上げた戦略会議を立て直したみずからの体験を語る。たったひとつのシンプルな問いによって、思考のリフレーミングが促されるという例だ。


 企業の戦略会議が、持論を主張し合う敵対的な場になってしまうことがよくある。それが戦略策定における最大の障害だとこぼす人も多い。だが、この障害を避けることは思ったより簡単だ。解決法は、ある問いを投げかけること。私はその問いが、戦略に関する最も重要な問いかけだと考えている。

 これを発見したのは約15年前、アメリカのウィスコンシン州ラインランダーでのことだ。住民7500人ほどの町で、ウィスコンシン州グリーンベイとミネソタ州ダルースの中間にある。そこのある会議室に鉱山会社の幹部10名が集まっていた。ちょうど半分が炭鉱運営に携わり、残りの半分がトロントにある本社からの参加だった。全員が意見――つまり、現実はこうであるという主張――を持っていた。だが、経験や技術的な知識、組織的な関心事がそれぞれ異なっていたため、意見はバラバラだった。話し合いはすぐに持論のぶつけ合いとなり、その先どう進んでいくのか見えなかった。

 すると私にアイデアがひらめいた。彼らが思う現実を話させるのではなく、「議論されている選択肢が最善となるためには、何が実現されるべきか」を尋ねたらどうだろう。魔法のようだった。見解のぶつかり合いが、それぞれの戦略オプションを真に理解するための共同作業に変わったのだ。

 何が実現されれば、その戦略が最善となるのか――この点をめぐり参加者たちは、すべての選択肢について建設的に議論を展開していった。敵対的に意見を主張し合うことはなかった。その日が終わる頃には、5つの戦略オプションそれぞれを最善の選択とするためには何が実現されるべきか、10人のなかで合意が形成された。そして、実現されるべき最も重要な事項ではあるが、同時に最も懸念される事項に関して分析する計画が立てられた。彼らはその分析に意欲を見せ、再び集まって、議論した戦略オプションの構造を基に意思決定を行ったのである。