企業や地域が、マーケティング・リフレーミングを進め、思考の罠を乗り越えていく。このようなプロセスを導くには思考の健全性が欠かせません。ではそのために、企業や地域のリーダーは、プロジェクトのメンバーにどのような思考をうながせばよいのでしょうか。連載の最終回の今回は、その一つの手法として、「ワールド・カフェ」をご紹介します。
多面性と共鳴力を志向したポジティブな思考
「マーケティング・リフレーミング」と題した今回の一連の連載では、市場という場では時の経過とともに、企業や地域の弱みは強みに転じ、強みは弱みに転じていくことに注目してきました。こうした市場の逆説性があるからこそ、マーケティング・リフレ-ミングという発想が有効となるのです。
また、この市場の逆説性があるため、マーケティングの実践にはさまざまな思考の罠が待ち受けています。マーケティング・リフレ-ミングを進め、これらの思考の罠を乗り越えていくためにも、企業や地域は、自らの実践を支える思考の健全性を保つことが必要です。
では、どうすれば組織やチームを、市場の逆説性に対峙するための健全な思考へと導くことができるのでしょうか。
まず、ここで必要となるのは、ひとつの視点に凝り固まらない思考です。そして、制約や問題に潜んでいる可能性を見いだそうとする前向きな思考も必要です、加えて、この思考は、プロジェクトの関係者に短期間のうちに受け入れられなければなりません。
ホールシステム・アプローチ
企業や地域がマーケティング・リフレ-ミングに向けて動き出すようになるためには、組織やチームのなかに、この共鳴力と多面性に満ちたポジティブな思考が広がっていることが必要です。ワールド・カフェは、こうした思考をうながすことに貢献する組織開発(OD)の手法です。
ワールド・カフェは、ホールシステム・アプローチに位置づけられる手法の1つです。ホールシステム・アプローチは、一種の草の根型の改善活動で、トップダウン型のアプローチ--すなわち、問題解決の処方箋はトップマネジメントや専門家が書き、現場はそれを実行することに徹するというアプローチ--の逆を行きます。
そのキーストーンとなるのが、トップから現場の担当者まで、プロジェクトの関係者が一同に会する集会です。こうした集会を開くことで、問題を全体的に考えながら、各現場での実践の方法を検討する姿勢が組織やチームのなかに生まれます。
このような草の根型のアプローチの意義は、現場の実情を踏まえた検討が行われ、現場の動きがよくなることです。また、プロジェクトのメンバーの自己管理と行動への責任感も高まりやすくなります。そのために、検討された問題解決の処方箋が、現場での実践につながりやすいのです。
多様なメンバーの参加をうながす
さて、ホールシステム・アプローチでは、専門家が一方的に処方箋を書くわけではないと述べました。とはいえ、ホールシステム・アプローチと専門家の知見は、常に対立するわけではありません。むしろ両者は、相互補完的なものだと考えるべきでしょう。優れた戦略を立案することは重要です。しかし、いかに優れた戦略計画であっても、現場で実行されなければ、絵に描いた餅です。専門家の高度な知見とホールシステム・アプローチの現場感覚との融合を実現するためにも、関係者が一同に会する集会などに、専門家の参加を求めることなどを検討するべきです。
加えて、この集会には、専門家だけではなく、顧客や取引先など、プロジェクトの直接のメンバー以外の多様な人たちの参加をうながすことが推奨されます。これもホールシステム・アプローチの特徴です。こうした参加者の多様性は、さまざまな立場や背景を踏まえた思考を導きます。また、他者との交流の楽しさは、ポジティブな姿勢による思考をうながします。
