最も影響力のある経営思想家「Thinkers50」第2位、W.チャン・キムとレネ・モボルニュの名著『ブルー・オーシャン戦略』の第1章を抜粋・紹介する本シリーズ(全5回)。第3回は、レッド・オーシャンの血なまぐさい競争から抜け出す方法についての項を紹介する。
企業や産業ではなく、「戦略の打ち手」を分析単位にすえる
では、レッド・オーシャンでの血なまぐさい競争から抜け出すには、どうすればよいのだろうか。ブルー・オーシャンを生み出す方法は何か。ブルー・オーシャンを切り開いて、好業績を保つための体系的なアプローチはあるのだろうか。
答えを探るために、筆者たちは手始めとして、そもそも何を分析単位にすえるかを決めることにした。ビジネス分野の文献は一般に、企業を分析単位として好業績の要因を探ろうとしている。さまざまな企業が独自の戦略、事業オペレーション、組織などを武器に、利益を上げながら力強い成長を遂げる様子は、人々を驚嘆させてきた。だが、筆者たちのここでの問いかけは、「絶えず他社をしのぎながら、何度となくブルー・オーシャンを切り開ける、永遠の『エクセレント・カンパニー』『ビジョナリー・カンパニー』は存在するのだろうか」というものである。
たとえばIn Search of Excellence(邦訳『エクセレント・カンパニー』大前研一訳、講談社、復刊・英治出版)やBuilt to Last(邦訳『ビジョナリー・カンパニー』山岡洋一訳、日経BP社)を考えてみたい(13)。かのベストセラー『エクセレント・カンパニー』が世に出たのはおよそ20年前だが、出版から2年も経たないうちに、この本で取り上げられた「エクセレント・カンパニー」の多くが変調をきたし、やがて忘れられていった。具体的にはアタリ、チーズブラーポンズ、データ・ジェネラル、フラワー、ナショナル・セミコンダクターなどである。Managing on the Edge(邦訳『逆説のマネジメント』崎谷哲夫訳、ダイヤモンド社)にも書かれているように、『エクセレント・カンパニー』が「模範的」として称えた企業の実に3分の2が、5年後には業界リーダーの地位から転落していた(14)。
『ビジョナリー・カンパニー』にしても同じである。この本は、長期にわたって輝かしい実績を上げてきた「ビジョナリー・カンパニー」を取り上げ、そこに共通する事業慣行をえぐり出している。もっとも、『エクセレント・カンパニー』の二の舞いを避けるため、『ビジョナリー・カンパニー』では設立後40年に満たない企業に対象を絞って、その全歴史に調査期間を広げた。こちらも名だたるベストセラーとなった。