本誌2013年7月号(6月10日発売)の特集は「広告は変われるか」。これに合わせ、HBR.ORGで展開された「広告の未来」特集から8本の記事を厳選し、お届けする。第3回は、「顧客ネットワーク価値」について。ソーシャルメディア空間における顧客の影響力や人脈は、いまやマーケターが最も重視すべき指標のひとつだ。これに直接的かつ大規模に取り組んだ、アメリカン・エキスプレスの実験を紹介する。
2013年2月にアメリカン・エキスプレスは、ツイッターとの連携サービス(Tweet-to-Buy)を発表してソーシャルメディア界の話題をさらった。コンセプトは単純明快だ。ユーザーは、アメリカン・エキスプレスのカードとツイッターのアカウントを連携させ、#BuyAmexGiftCard25のハッシュタグをつけてツイートすれば、25ドル分のギフトカードをたったの15ドルで購入できる。要するに、同社はこのブランド推奨ツイートに対して、10ドルを無償で提供するというのだ。
原理的には、そのツイートが将来的に10ドル以上の純利益をもたらすと同社が期待しているのであれば、ツイート1件に10ドルを支払う価値がある。しかし、どうやってそれを定式化すればいいのだろうか。
アメリカン・エキスプレスのような企業がディスカウントを提供する場合、その出費はしばしば「顧客生涯価値」(CLV)の観点から正当化される。これは通常、事業体とその顧客が関係する全期間を通しての購買行動から期待できる純利益として算出される。ディスカウントは顧客のロイヤルティを向上させる可能性が高く、ロイヤルティはCLVを向上させる。したがって、企業は将来のために、いまディスカウントを提供するほうが得というわけだ。
しかし、今回アメリカン・エキスプレスが投資している対象は異なる。彼らはCLVではなくCNV、すなわち「顧客ネットワーク価値」に資金を投じているのだ。CNVは、顧客がブランドを自分のネットワークに推薦することによって、ネットワーク内の誰か(友人、家族、オンラインのフォロワーなど)が購入するという可能性から生じる期待純利益である。
例を挙げて説明しよう。もし、ジャスティン・ビーバーがおよそ3500万人のフォロワーに向けて#BuyAmexGiftCard25とツイートし、アメリカン・エキスプレスのギフトカードを買おうとするならば、彼に10ドルのディスカウントを提供することには十分な価値があるだろう。少なくとも、フォロワーの一部はこのキャンペーンをチェックするだろうし、彼のファンは比較的若年層が多いため、いずれアメリカン・エキスプレスのカードを申請しようと考える人も少なくないだろう。つまり、ジャスティン・ビーバーのCNVは非常に大きく、10ドルなどとは桁違いの価値があるのだ。
別の極端な例を挙げよう。新しいツイッターアカウントを取得した、フォロワー数0の人が、カードと連携して#BuyAmexGiftCard25とツイートする場合、この顧客がツイッター上で持つネットワーク価値はほぼ0ドルだろう。