既存の広告手法にとらわれないコミュニケーションの手口で、企業や社会の課題を解決する。そんな「手口ニュートラル」というコンセプトを持つ博報堂ケトル。「広告は変われるか?」という問いに、彼らは力強く「変われる!」と即答した。第1回目は広告コミュニケーションの変遷をたどりつつ、変わり続ける今について語っていただく。


 今回の連載を依頼され、「広告は変われるか?といわれたらどう答えますか?」と編集長に問われたとき、僕らふたりは、「広告は変われます。」と即答しました。いや、「変わり続けている」といったほうが正確かもしれません。この連載では、博報堂ケトルというクリエイティブエージェンシーを経営する僕らクリエイティブディレクターのふたりが、広告コミュニケーションがこれまでどう変わってきて、これからどう変わっていくのかについて、思うことを自由に書いてみたいと思います。

カンヌの歴史から広告コミュニケーションの潮流を俯瞰する

 広告業界で最大のイベントは言うまでもなく、毎年6月に南仏で開催されるカンヌライオンズ・インターナショナル・フェスティバル・オブ・クリエイティブティ(以下、カンヌ)です。カンヌ映画祭ほど世の中的には有名ではありませんが、世界各国から1万人以上の参加者が集まり、約20部門のそれぞれにおいて、その年の優秀な広告を審査、表彰すると同時に、100を超えるセミナーが行われ、いわば次の広告コミュニケーションの進むべき方向を議論し合うイベントです。

 今年は60周年を迎えるカンヌ。実は今、僕らはふたりとも、嶋は審査員として、木村はセミナーのスピーカーとして、これからカンヌに旅立つ直前なのですが、第1回目は、このカンヌの歴史的な潮流を俯瞰することで、広告コミュニケーションがこの10年で世界的にどういうコンテキストをたどって変わってきたのかを、(多少独断と偏見に基づいて)述べていきたいと思います。

BMWフィルムズという事件

 カンヌ広告祭(旧称)は、1954年に創設されてから最初の38年間はずっとテレビCMの祭典でした。その後、1990年代にグラフィック広告やサイバー広告、アウトドア広告など部門は増えていきましたが、2002年くらいまでは、いわゆる狭義の広告表現の品評会だったと思います。

 転機になったのは2003年。BMWフィルムズというキャンペーンでした。広告予算のほぼ全てを、マス広告でなく、BMWが登場するオンラインフィルムの映像制作に充て、それをウェブ上で公開するという当時としては前例のない斬新なキャンペーンでした。これは従来のフィルム部門やサイバー部門の評価基準の枠を明らかに超えていたため、この年、広告の向かう未来を指し示す革新的なコミュニケーションを表彰するための「チタニウム部門」が創設されます。そしてBMWフィルムズがその初代グランプリとなったのです。

 これは、アドからコンテンツへ、プッシュ型からプル型のコミュニケーションでマーケティング課題を解決するひとつの潮流の起点になったと思います。