本誌2013年7月号(6月10日発売)の特集は「広告は変われるか」。これに合わせ、HBR.ORGで展開された「広告の未来」特集から8本の記事を厳選し、お届けする。第5回は、ブランドの物語化について。映画の中に製品を登場させる広告手法「プロダクト・プレイスメント」は、時代遅れになりつつあるという。ブランドそのものを物語化し、映画に劣らず魅力的な体験を提供しようという提言だ。

 

 1世紀以上の長きにわたり、物語を伝える手法として最高峰の地位に君臨してきたのは映画だった。「銀幕」の巨大なサイズ。自分たちの作品は観客の目を3時間以上も捕らえて離さない、というハリウッドの自信。そして何億ドルもの予算。これらは映画という芸術形態の圧倒的な優位性を示すものだ。では、物語を伝える「アーティスト」はどう見られてきたのか。映画監督は神とされ、テレビのプロデューサーはアーティスト気取り。そして広告業界のお偉方はといえば、取るに足らない存在であった(最近のアドバタイジング・エイジの調査では、広告業への尊敬度は政治家より低かった)。

 だから、ブランドを素晴らしいストーリーと結びつけたいと考えた広告主たちが、「プロダクト・プレイスメント」という手法に何十年も頼ってきたのは無理もない。製品やサービスを良くできたストーリーに織り込めば、当然うまくいくはずだと考えられてきた。特に、ブランドのストーリーはハリウッドのストーリーにかなうはずがない、と思われていた頃までは。

 もちろんそのような考え方は、大半の消費者や広告主が気づくより速く、時代遅れになりつつある。そしてストーリーテリングの未来は、この流れを逆行させるのだ。テクノロジーの進化によって、ブランド体験にまつわるストーリーを、次のハリウッド大作にまったく引けを取らないほど魅力的な――そしてはるかにインタラクティブでリアルな――ものにできるチャンスが絶えず生まれている。広告主が対価を支払って、製品を他者のつくった優れたストーリーに結びつける「プロダクト・プレイスメント」に代わり、「ストーリー・プレイスメント」の時代が到来していると私は考えている――強烈な創造性が顧客体験のあらゆる段階に組み込まれ、ブランドそのものが終わりなき魅力的なストーリーとなるのだ。

 これはどう機能するのか。たくさんの企業幹部や予測家との対話をもとに、2020年の広告業界を想像してみた。そこにはストーリー・プレイスメントの台頭をもたらす、3つの顕著な変化が見える。