こうした意見には、ある意外な共通点がある。それは、感情面での健全性を維持するには、私生活においても小さな成功を経験する必要がある、という見解だ。Feeling Good(邦訳『フィーリングGoodハンドブック』星和書店)の著者デビッド・バーンズ博士は、大きな成果だけでなく一見些細に見える成果についても、記録をつけ、振り返り、プラスに評価することの重要性を説いている。小さな成功に注目することは、不安や悲しみからの脱却につながるのだ。これは認知行動療法の原則のひとつである。たとえば、深く落ち込んでいる人は、身体を動かせば不安が軽減されるとわかっていても、運動プログラムをやり通すことが難しいと感じる場合がある。それゆえ、毎日ジムで1時間汗を流す、といった目標は実現不可能に思え、決して実行に移すことはない。バーンズは、「1度にすべてをやり遂げなくてはならない、と思い込んでいるのが原因である。そうではなく、作業を実行可能な小さい単位に分解し、1つずつクリアしていけばよい」と記している。つまり、近所を散歩するというような控えめな目標から始めるほうが、はるかに効果的であるということだ。したがって深く落ち込んでいる人は、小さな目標の達成を記録してみずからを称えることにより、新たな目標を立て、より多くの大きな成功を期待できるようになる。
私生活における小さな成功は、私たちを常に前向きな気持ちにさせる。一方で、多くの研究によれば、生活上の大きな出来事は、主観的な幸福感を長続きさせる効果がほとんどない。たとえば宝くじに当選しても、長期的な幸せに結びつくわけではない場合が多い。マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメント教授のダニエル・モーションらは、ごく当たり前の活動から得られる、定期的で些細な進捗には、持続的で蓄積的な効果があることを発見した。たとえば、定期的に礼拝に出席する人が感じる幸福感は、時とともに蓄積されていく。そして、礼拝に出る頻度が多くなればなるほど、幸福感も大きくなる。この結果は、定期的な運動やヨガについても同様であった。
日々多くのストレスや悩みを抱えて生活する私たちは、自分の小さな前進を容易に見過ごしてしまう。この数日間を振り返ってみよう。レーダーが感知しなかった成功はないだろうか。もし思い当たるなら、少し時間を割いて自分を祝福するとよい。そしてもし気が向いたら、その成功を私たちにも教えてほしい。喜びを分かち合うために。
HBR.ORG原文:Small Wins and Feeling Good May 13, 2011

テレサ・アマビール(Teresa Amabile)
ハーバード・ビジネススクール(エドセル・ブライアント・フォード記念講座)教授。ベンチャー経営学を担当。同スクールの研究ディレクターでもある。
スティーブン・クレイマー(Steven Kramer)
心理学者、リサーチャー。テレサ・アマビールとの共著The Progress Principle(進捗の法則)がある。