前回に引き続き、過去の失敗を見ながら「論理の混ぜ合わせ」を考えてみよう。AT&Tがケーブル会社を巨額で買収し、2年後には大幅に下回る価格での売却を余儀なくされた事例にも、この論理的欠陥が見られるという。


前回のブログでは、AOLとタイムワーナーの合併における論理的欠陥を取り上げた。これに対して、後づけの議論であると読者から批判されることはある程度予想していた。しかし、私が正しかったかどうかは記事のポイントではない。あの記事を書いた目的は、根本にある論理的欠陥を明らかにすることだ。だから話を前に進めよう。

 今回は、別の例を見てみよう。1999年から2000年にかけて、AT&Tはケーブルテレビ会社のTCI、メディアワン、ケーブルビジョン(ボストンのみ)を約1300億ドルで買収した。しかし2002年には、AT&Tブロードバンドをコムキャストに440億ドルで売却することになる。わずか2年間でこれほど価値を失うのは難しい。

 当時、AT&Tの国内長距離電話の市場シェアは約40%で、同社が買収したケーブルテレビの市場シェアは10%だった。買収の根拠は、AT&Tが顧客の家庭につながる末端の回線(ラストマイル)を所有すれば、より魅力的なサービスを提供でき、長距離電話の市場シェアも守ることができるというものだった。

 長距離電話とケーブルテレビのあいだにシナジーがある――あるいはシナジーがない――という前提から、AT&Tにとっては次の2つの議論が考えられる。

1. もし、顧客がケーブルと長距離電話のシナジーに魅力を感じるなら、その結果 、長距離電話の顧客のうちケーブルテレビの顧客ともなった25%の人々とはよい関係が持てるだろう。しかし、残りの75%にケーブルテレビのサービスを提供するために、さらに5000億ドルを払って買収を行う必要がある。

2. もし、顧客がこのシナジーに魅力を感じないなら、その結果、ケーブルに投資してもメリットは得られない。しかし、もうこれ以上ケーブルに投資する必要がないことはわかる。

 巨額のプレミアム価格を払って3社のケーブルテレビ会社を買収するにあたり、AT&Tは次の命題を組み立て、きわめて大きく賭けたのだ。

3. もし、顧客がケーブルと長距離電話のシナジーに魅力を感じるなら、その結果、長距離電話の顧客のうちケーブルテレビの顧客ともなった25%の人々とはよい関係が持てるだろう。そして 、もうこれ以上ケーブルに投資する必要はない。

 AT&Tにとって残念なことに、3つ目の文の「そして」以下は、その前の「もし・・・なら、その結果・・・だ」とは論理的に一貫性がなかった。「もし・・・なら、その結果・・・だ」が正しかったなら、AT&Tは当然の帰結として、ケーブルテレビへのあり得ないほど巨額の投資を続けなければならなかっただろう。実際は、この買収劇で最も恩恵に浴したのはコムキャストだった。1999年のメディアワンの買収ではAT&Tに敗れたが、わずか2年後にはAT&Tブロードバンド全体を、メディアワンへの買収提案額を下回る価格で買収することができたのだ。