同じように、イノベーションによる成長を推進するための経営資源が本当に不足しているという企業も、ごくまれであると思う。根本的な問題は、取り組む内容が間違っていることにある。たとえば、実質的なインパクトを生む可能性がほとんどない漸進的なアイデアに、従業員を取り組ませ多忙にさせていることがある。また、ゾンビ・プロジェクトに囚われている場合もある――経営陣が打ち切ったつもりでも、従業員の誤った情熱により生きながらえてしまっているプロジェクトだ。あるいは、エンジニアたちを虜にしているが、顧客の根本的なニーズには対応しないような取り組みの場合もあるだろう。
私の経験則では、企業のイノベーション・プロジェクトをおよそ半分に減らしても問題がない。これは必ずしも、イノベーションに取り組む従業員を半数に減らすということではない。むしろ、従業員たちを最も優れたアイデアに回す、あるいは10の平凡なプロジェクトに関わらせるのではなく、1つの素晴らしいプロジェクトに集中させるのだ。
第3の意見――イノベーションには時間がかかりすぎる――というのは、真実である。皮肉なことに、多くの企業では経営資源の豊富さが、この問題を引き起こす要因となっている。比較的潤沢な予算と人材を抱えている企業は、問題に際限なく取り組める。これに対し起業家は、資金が底をつく前に素早く行動せざるをえない。厳しい締め切りを設け、チームが重要な進展を成し遂げるごとに資源を小出しに配分していけば、イノベーションを劇的に加速させることができるだろう。
多くの大企業にとって、イノベーションが難題であることは疑う余地がない。だが降参する前に、イノベーションを妨げていると思われる障害の根本原因を突きとめてみよう。そうすれば、より早く、よりうまく進める方法が見つかるはずだ。
さて、冒頭のゲームに戻ろう。かつて私はピッチャーであったが、ノーヒットノーランの経験はない。マーク・アンソニーと私は何の関係もない。正解は(1)。恥ずかしい話だが1980年代後半、私は掲示板を運営する人がサイトでフットボール賭博を提供できるようなプログラムをつくり、それが登録されたことがある。
HBR.ORG原文:Two Innovation Lies and a Truth July 20, 2012

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。