ハーバード・ビジネススクール教授のリンダ・ヒルは、組織行動論の大家として経営思想家トップ50の第16位に選ばれている。今週から、リーダー像の再定義を促すヒルの記事をお届けしていく。第1回は、ネルソン・マンデラの言葉からヒントを得たリーダーの役割について。
これから先10年ほどのあいだ、最も有能なリーダーは人々の先頭に立つのではなく、人々の背後から指揮を執っていくであろう――これは、他ならぬネルソン・マンデラの言葉である。マンデラは自叙伝の中で、優れたリーダーを羊飼いに例えている――「羊飼いは群れの後ろにいて、賢い羊を先頭に行かせる。あとの羊たちはそれについていくが、全体の動きに目を配っているのは、後ろにいる羊飼いなのだ」(東江一紀訳、『自由への長い道』NHK出版)。

(Linda A. Hill)
ハーバード・ビジネススクールのウォーレス・ブレット・ドナム記念講座教授。経営管理論を担当。
主な著書にBeing the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。
この概念は、以下のような現実を踏まえれば、今日にこそ当てはまるといえる。
企業と従業員とのあいだの精神的な絆は変化している。 従業員は、何にも増して自分の仕事に意義や大義を強く求めている。個人として評価されること、そして自分よりも大きな何かに貢献することを求めている。彼らは組織のパートナーとしてともに目的を達成する機会を欲し、世界に貢献している組織に関与することを望んでいる。
イノベーション(漸進的ではなく、持続的かつ画期的なイノベーション)が、競争力のカギとなる。 独創的なひらめきを持つ孤高の天才こそが優れたイノベーターである、という世間のイメージは根強い。だが結局のところ、iPodやピクサーの映画は誰か1人の構想や労力の産物ではない。イノベーションのほとんどは、さまざまな集団が関わり、共同で発見や反復作業を行った結果である。これまで権限を持つ人々は、重要なアイデアを考えるのは自分たちの仕事であると教えられてきた。しかし、持続性のあるイノベーションは、チームの全員に「天才の片鱗」(slice of genius)を示す機会が与えられているときに生まれる(天才の片鱗とは、ウォルト・ディズニー・スタジオのCTOグレッグ・ブランドー、私の共同研究者のエミリー・ステッカー、そして私の3名による共同研究のなかで生まれた概念である)。平凡そうに見える人々が並外れた貢献を見せるときに、ブレークスルーが生み出されるのだ。