栄養素普及ビジネスを志し、東大農学部に転身した出雲氏が見つけたのは、ミドリムシ。意気揚々とプロジェクトを立ち上げたところ、ミドリムシ研究はすでに長年行われており、しかも頓挫の危機に瀕しているという。ユーグレナ起業の一部始終を記した著書を公開する連載第3回。

 

近藤論文の衝撃──ミドリムシはなぜ地球を救えるのか?

 その名も、「ニューサンシャイン計画」。もともとこの計画は東京大学の近藤次郎名誉教授が、1989年に発表した論文、『地球環境を閉鎖・循環型生態系として配慮した食料生産システム ユーグレナの食料資源化に関する研究』に端を発する。

 この論文では、学術名ユーグレナ、つまりミドリムシを大量に培養して、栄養素豊富な食料として利用すること、またミドリムシが光合成によって太陽から取り入れたエネルギーを石油と同じように精製し、燃料としても利用できること、さらには二酸化炭素を吸収させて、地球温暖化を食い止められることが、詳細に書かれていた。

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収穫したユーグレナの粉末

 僕はその論文を読んで、「まさにこれが自分の探し求めていたものだ。これこそが仙豆だ!」と確信した。弁論大会で気づき、バングラデシュで直に目にした栄養素問題を解決できるのだ。

 それもただの仙豆ではない。CO2を吸収し、燃料にもなるのだ。ちなみに鈴木は、エネルギー問題を解決する可能性に関心があり、近藤先生の論文を読んでいたようだ。

 ミドリムシのポテンシャルは本当にすごい。

 ミドリムシは植物と動物の両方の性質を持っているので、両方の栄養素を作ることができる。その数は、なんと59種類にも及ぶ。ミドリムシを大量生産し食料資源化ができれば、将来、日本に食料危機があったとしても、輸入食料に頼らずに必須栄養素を賄うことができる。

 しかも農地ではなくてプールで生産すればいいので、工場跡地や砂漠のような土地はもちろん、バングラデシュのヒ素で汚染された土地でも生産できる。さらに2000年頃の日本ではまだ盛り上がっていなかったが、「将来、必ず地球温暖化が大きな問題となる」ということが言われ始めていて、そうなったときはミドリムシにCO2を減らしてもらうことができる。はるか5億年前からCO2を吸収してきたミドリムシは、高等植物よりも圧倒的にCO2の処理能力が高い(専門的には、光合成能が高い)ので、森林が減少した分の酸素の生産を補うことが可能になるのだ。

 さらにさらに、世界人口は爆発的に増えることが予測されているが、ミドリムシを増産することで、地球環境を維持しつつ、世界の人々は健康に暮らすことができるだろう、と論文には書いてあった。

「さすが東大! 近藤先生すごい! 天才だ!」

 と興奮した僕は、すぐにでも近藤次郎先生にお会いして、ミドリムシをビジネス化する方策についてご相談しようと決めたのだった。