本誌2013年8月号(7月10日発売)の特集は「起業に学ぶ」。これに合わせ、HBR.ORGから“起業の心得”をテーマに精選した記事をお届けする。第3回は「運」について。起業家の成功には運が重要な要素であるだけでなく、運はみずから生み出すことができる――これはベンチャーキャピタリストである著者が、調査を通して導いた法則だ。カギとなるのは、運を呼び込む「姿勢」と「ネットワーク」であるという。


 起業家にとって、成功は保証されたものではない。大胆な構想、たくさんの情熱、そして優れた知性や分析力を持っていたとしても、自分ではどうすることもできない外的要因が常に存在する。起業には――特に初期の段階において――土壇場で生じる問題や、予測できない致命的な不確定要素が、大損害をもたらす可能性が常に潜んでいる。大口顧客の未払い、資金源の消失、世界市場の冷え込みなどが起きた時、起業家は瞬時に軌道修正を迫られる。

 反対に、運に恵まれる時もある。ビジネスアイデアが、まるで運命であるかのように時代や文化とうまくマッチすることもある。ウォーレン・バフェットが自分の成功の大部分を運のおかげとしているのは有名な話だ。彼は、みずからの能力で多大な富を得るために最適な時代と国に生まれたことを、「“卵巣の宝くじ”に当たった」と表現している。さらに彼は、くじ引きの箱の中に、地球上の1人1人に1個ずつ割り当てられたボールが入っている、という例えを用いている。もしも自分のボールが今とは違う時代、たとえば何百万年も前に引き当てられていたら、自分は役立たずの人間で、おそらく恐竜に食べられていたであろうと述べている。また、バフェットは自身の資金配分の能力が環境に後押しされたものであることも認めている。資本市場のない無人島に住んでいたとしたら、彼の能力の価値はほぼゼロに等しい。

 そう考えると、運は重要である。私が共著者として加わるHeart, Smarts, Guts, and Luck(HBR Press、未訳)の執筆中に行った調査では、自身の成功が幸運のおかげだと語る起業家や創業者の多さに驚かされた。企業の創設者たちとのインタビューでは、「運」という言葉を何度も耳にした。我々が作成した「起業適性テスト」(Entrepreneurial Aptitude Test:英語サイトはこちら)に回答した起業家の25%が、「運重視型」と判定された――これを上回ったのは「ハート(目的や使命)重視型」のみであった。