DeNAの起業に参加した渡辺雅之氏による連載2回目は、新規事業について。DeNAの立ち上げ期に新規事業を担当していた渡辺さんは、ほとんどが失敗だったという。これだけ失敗を経験して学んだコツとは?
DeNAで僕が担当していたのは、最初こそ企画やマーケティングから営業まで「文系」全般だったが、組織の拡充に伴って絞られ、また、移り変わっていった。その中で、一貫して関わったのが、新規事業の検討や立ち上げで、指折り数えてみても、数十の新規プロジェクトに関わった。
残念ながら多くのものは影も形もなくなってしまったし、成功した事業でも僕が関わった部分は限定的だ。成功率も低ければ、最初から最後まで自分で立ち上げたと言えるほどの代表作もない。それに過去の自分の企画を思い出してみても、後悔するポイントばかりが頭に浮かぶ。はっきり言ってしまえば新規事業立ち上げの定石や普遍的なコツというものは、未だにさっぱり分からない。

(わたなべ まさゆき)
京都大学在学中から発展途上国20数カ国を渡り歩き、難民支援NPOに住み込みで長期インターンをするなど経済格差や教育問題に強い関心を持つ。卒業後マッキンゼーに入社。1999年に同僚の南場・川田によるDeNA創業に参加し、以来一貫して事業戦略、マーケティング、新規ビジネスを担当。2010年に退職し渡英。ロンドンで学習プラットフォームサービス『Quipper』を創業しCEOを務める
ただ、さすがに僕ほど山のようにネットの新規事業立ち上げに失敗し、あるいは苦労してきた人間もそうはいないだろうから、反省点をまとめる形で少し話しをしてみたい。
1つは、うまくいくかどうかは事前に分からないことを肝に銘じ、企画を練り過ぎたり、テーブルの上で議論しすぎたりしない方がいい。新サービスは当たり前だが「新しい」わけで、古い情報は参考にしかならない。ある程度検討したら素早く始めて、さっさと失敗し軌道修正に入るのが近道である。
検討のしすぎは時間の無駄どころか、害になることもある。熟練した企画者の手にかかれば、たとえ正反対の結論でも、流麗なロジックである程度自由に描けてしまう。1つひとつの情報の正誤以上に、情報を組み合わせる順番や、情報のどの側面を強調するかによって完全に違う意味合いになる。そして、企画者は企画の美しさに囚われ、自ら修正できなくなってしまう。実際、何度となく僕はこのミスをしたし、今でも練り上げすぎて自爆することが多々ある。
プロダクトにおいては、モックやβ(ベータ)、MVP(最小限の商品)など、段階的に小さく確認する手法が確立されてきたのに対し、事業企画では依然として個別性が高い職人芸が多く、手法の標準化がされていないように感じる。少し前にエリック・リースが書いた『リーン・スタートアップ』が世界中で流行ったが、どこまで変わってきているのだろうか。
さて、その精度の低さを前提にした上で、やはり航海に漕ぎ出すときに南か北かの方角ぐらいの情報すらないのは心もとないし、軌道修正するにしてもペースメーカやベンチマークは必要だ。最小限の検討はやはり必要である。
その際、僕が意識するのは、核となる事業アイデア以外「できる限り発明をしない」ことである。サービスそのものに新規性が高い場合、マーケティングやロジスティクスなどには逆に新規アイデアや危うい仮説はまったく入れないぐらいで丁度いい。仮説や発明の組み合わせを掛け算していくと、新規事業の成功確率と投入速度はどんどん落ちる。同時にチャレンジすることが多いと、失敗した時にも理由がわかりにくい。一歩目がうまくいったら、1つずつ仮説やアイデアを足していけばいい。