環境問題を論じるうえで、グローバル化は無視できない要因のひとつだ。しかしゲマワットによれば、その影響は実は限定的なものであり、マイナスばかりでなくプラスの面もあるという。


 価格は、取引に関わった人全員にとってのすべてのコストとメリットに、必ずしも見合うとは限らない。良きにつけ悪しきにつけ外部性をともなう。そして最も頻繁に論じられる外部性は、自然環境に及ぼす害に関するものである。

 もちろん、グローバル化は自然環境に影響を及ぼすが、良い影響と悪い影響が入り混じっており、概して多くの人々が考えるほど恐ろしいものではない。ほとんどの環境問題はグローバルではなくローカルなものである。また、国際的な統合は一部の地域では環境汚染を引き起こす場合もあるが、一方でその浄化に役立つこともある。

 CO2排出量削減への圧力が高まるにつれて、国際貿易における物流は負の要因としてしばしば引き合いに出される。環境を懸念する人々の間では、地産地消を促す声も少なくない。しかし現実を直視してほしい。国際貿易が皆無であった時代に比べ、消費者の需要と期待は大きく変わった。貧困の解決に向けた世界的な共同誓約はすぐには実現しそうもない。この状況下で、国際貿易に頼らず現代の需要を維持することは、自然環境に利するよりも実際には害を及ぼすと思われる。たとえば英国を拠点とするスーパーマーケットチェーンのテスコは、2007年にCO2排出量の削減を目標としてケニアからのバラの輸入を取りやめる決定を下した。しかし調査の結果、代わりに仕入れたオランダ産のバラは、6倍の温室効果ガスを放出することが判明した。文字通り温室で育てられていることがその大きな理由である。

 国際輸送で生じる温室効果ガスのうち、どの程度が実際に輸送時の燃料消費に起因しているのだろうか? 国際的に取引される商品の大部分は海路で輸送されるため、まずは海運業について知るべきであろう。見積りによれば(PDF)、国際的な海上輸送は燃料消費によるCO2排出量の2~3%を占めるという(PDF)。この数値は、貨物船がどれほど長距離を移動するかを考えると、驚くに値するかもしれない。しかしトン/キロメートル当たりで見ると、貨物船はたった15~21グラムのCO2しか排出しないのに対し、トラック1台は50グラムである。つまり大洋をまたがって長距離輸送するほうが、陸路で比較的短距離を輸送するよりも、実際には害が小さいことになる。

 もちろん、物(と人)は空路で移動することもよくあるので、燃料消費によるCO2排出量のうち1~2%が国際的な空輸によるものと推定される(人為的な気候変動への影響のうち推定3%を占める(PDF))。一般の人々はこの数値を20%以上であると想像しがちだが、実際はわずかである。また、輸送関連の排出のうち国際空輸による排出量は、自動車の運転(たいてい国内で行われる)による排出量の10分の1程度である(WTOのサイト)。国際貿易に用いられる輸送手段はある程度の害を自然環境に及ぼすものの、国内で発生する被害に比べればたいしたことではない。