前回は一見相反する2つの論理から双方のメリットを引出し、トロント映画祭を成功させた「ダブルダウン」について紹介した。今回は相反する論理を正しく統合する第2の方法――「分解」の例を紹介する。


前回のブログでは、2つの戦略ロジックを「ダブルダウン」によって統合し、よりよい結果を生み出せる場合があることを示した。これは、一方の論理の重要な要素を極度に強調することによって、他方の論理の重要なメリットも活かすというものだ。

 2つの論理を統合する2番目の方法は、問題を分解することによって両方の論理を同時に用いるというものだ。このやり方は、建築事務所のクワバラ・ペイン・マッケンナ・ブランバーグ・アーキテクツの代表、ブルース・クワバラが採用した。彼はこの時、カナダの電力会社マニトバ・ハイドロの新本社ビルを設計するチームを率いており、相反する戦略のトレードオフに直面していた。このビルはその後、高層ビルと都市住居協議会(Council on Tall Buildings and Urban Habitat)による「アメリカ大陸における最優秀高層ビル賞」を2009年に受賞することになる。

 マニトバ・ハイドロは本社ビルの建設に関して、相容れない可能性がある2つの目標を持っていた。1つはエネルギー効率を高水準にすること。同社が環境保護と持続可能性を重視していることを示すためだ。もう1つは、従業員のために居心地がよく快適なビルにすることだ。

 だが、これらの目標は、クワバラにとって相反する困難な戦略となった。一般に、エネルギー効率をよくするにはビル内の空気を入れ換え適切な気温まで一度上げ下げしたら、後は維持すればよい。エネルギー効率を重視するビルで空気を入れ換えられるのは、外と内の気温がほぼ同じ時だけだ。しかし、冬は凍えるほど寒く、夏もかなり暑いことで有名なウィニペグ(カナダ・マニトバ州南部の町)ではそれはありえなかった。

 居心地のよい快適なビルには正反対のものが求められる。大量の新鮮な空気だ。そして適切な温度に保つためには、空気入れ替えのたびに冷やしたり暖めたりする必要が出てくる。ウィニペグのような場所では大きなコストがかかる。

 この問題を、エネルギー技師のトーマス・アウアーとともにクワバラは検討した。すぐに明らかとなったのは、もしも一般の建築士がやるように、暖房・換気・冷房(HVAC)を1つのシステムとして考えていたら、この2つの目標を同時に達成するのは無理だということだ。HVACシステムが新鮮な空気を大量に取り込めば、暖房・冷房に恐ろしいほどのエネルギーを消費する。新鮮な空気をほとんど入れなければ、エネルギーは節約できるが室内の空気はよどんでしまう。