本誌2013年8月号に合わせ、HBR.ORGから“起業の心得”をテーマに精選した記事をお届けする。第5回は社会事業を支援し、ティーチ・フォー・アメリカなどを手がけた著名なエンジェル投資家が語る、出資の判断基準について。投資家は起業プランよりも、情熱や再起力といった起業家自身の資質を重視するという例を紹介する。
「私のビジネスプランに目を通していただけませんか?」
エンジェル投資家として社会事業に資金を提供する我々エコーイング・グリーン(Echoing Green)のスタッフは、上記の依頼を毎週のように受けている。それらの起業プラン――たいていは製品概要、競合分析、市場規模予測、財務計画などを含む――には、快く目を通している。しかし我々が知りたいのは、こうした型通りの内容よりもはるかに多くのことだ。社会を大きく変えうる新たな人やアイデアを探す際に、我々はもっとほかの要件に注目している。
手短に言えば、ビジネスプランは過大評価されているのだ。
大半のスタートアップ企業と同じように、新規社会事業も「ブートストラッピング」(外部から資金を調達せず自力で起業すること)である場合が多い。アマル・ビデがHBRに寄稿した論文“Bootstrap Finance: The Art of Start-ups”(20年前の論文だが、最近流行の「リーン・スタートアップ」を完全に先取りする内容だ)で述べているように、自力本願の起業家にとって、従来型の事業計画プロセスはあまり意味を持たない。計画よりも再起力が、そして経験よりもエネルギーが重要となるからだ。
初期段階のコンセプトをエクセル上の計算に当てはめて分析しても、結果は往々にして悲惨なものとなる。代わりに我々は、8つの主な「成功の基準」に注目する。その半分は、(ビジネスプランではなく)起業家自身に関するものだ。これらは、過去25年間にわたり、500を超える新規社会事業に計3,000万ドルを出資してきた我々が導き出した、成功する社会起業家を見定める基準である。そして社会起業家のみならず、ほかのあらゆる起業家にも同様に当てはまる。
●目的と情熱:対象となる課題や地域社会のことを、どれほど真剣に考えているか。それは我々出資者に十分伝わるか。
当財団は、黒人男性の成功を支援するプログラムを主催している。2012年、プログラムの一環として28歳のマーキス・テイラーに出資した。彼は、バスケットボールやアメフトなどのスポーツと関連した事業機会を求める若い黒人男性を、起業家となれるよう支援するコーチング・フォー・チェンジという組織を設立した。マーキスの情熱は、プログラムへの応募当初から非常に明白であった。ロサンゼルス中南部の母子家庭に育った彼は、大学進学をバスケットボール奨学金によって勝ち取った。そしてマーキスは、スポーツに関するある事実を理解していた――プロスポーツ選手になれる人はほんの一握りであるが、スポーツ自体はコーチング、トレーニング、ユースキャンプの運営といった絶好のビジネスチャンスを提供する、数十億ドル規模の産業であるということだ。