コンサルタントを招いて話をしてもらった背景には、このような事情があった。彼を交えて自社の問題を話し合う場で、我々を取り巻く世界が変化しており、断固たる行動が必要であることを私は再度指摘した。経営陣の反応はいつもと変わらず、相槌を打ちながら、呆れた表情をするだけであった。
ならば、ここで何かを学んでやろう――そう私は考え、ミーティング後にコンサルタントを呼び出して尋ねた。「私の重要な指摘を、全員があくびをしながらスルーしていました。いったいどうなっているのでしょうか?」
「確かに重要な指摘でしたが」と彼は答えた。「あなたは橋をまったく築いていませんね」
橋を築いていない?
私は家に帰り、このことについて考えてみた。頭の奥では、彼が正しいことを理解していた。私は橋を築いていなかった。相手と同じ視点で対話をするのではなく、ただ自分の考えを通達していたのだ。私には問題の解決策も、優れたビジョンもあった。つまり答えを知っていた。その答えと会社が取るべき行動を、全員に伝えてきた。改革が痛みと困難を伴い、慣行の一部を根本的に変えることを迫ったとしても、それは仕方がないことだ――そう思っていた。
私はコンサルタントの意見を真摯に受け止め、自分から相手に手を差し伸べて橋を築き、全員一丸となって会社をよりよい未来へと導いていった――と言えればいいのだが、そうはしなかった。
何らかの歪んだ思考が働き、自由参加型のアイデア交換の場で自分の完璧な構想を損なうことはできない、と決めつけてしまったのだ。純潔なまま殉教者として辞任したほうがよい。それが私の選んだ行動であった。
それから数年かけてゆっくりと、私は自分の愚かさに気づいていった。私は皆を裏切ったのだ――会社、同僚、そして私を信じてついてきてくれた、すべての人を。のみならず、それは変化を起こしたいと心の底から願っていた自分自身への裏切りでもあった。
なぜ、私たちは学ぶことができないのだろうか。誰かが自分の目を見つめ、答えを教えてくれたとしても。「あなたは橋を築いていません」という彼が正しいことは、わかっていた。彼の言う通りにすればよいこともわかっていた。しかし、できなかった。なぜだか、自分の性分とどうしても相容れないことだったのだ。
それ以来、自分の構想を人に伝え、人と協力してそれを実現していくためにはどうすればよいのかを考えるようになった。そして、当時それができていたら、どうなっていたのかを。
同じような場面に遭遇し、乗り越えられた人はいるだろうか。自分の本能に逆らうためには、何が必要だったのか。これは習得が最も難しいことだろう。あなたは橋を築けているだろうか。もしも答えがノーならば、その理由を自問してみよう。何があなたを抑えつけているのだろうか。
HBR.ORG原文:The Leadership Learning Mement That Wasn't January 25, 2011

リンダ・A・ヒル(Linda A. Hill)
ハーバード・ビジネススクールのウォーレス・ブレット・ドナム記念講座教授。経営管理論を担当。主な著書にBeing the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。
ケント・ラインバック(Kent Lineback)
著述家。リンダ・ヒルとの共著Being the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。