途上国市場において経済的利益の実現と開発課題の解決という双方で成功している企業に認められる属性とは何だろうか。「社会経済的収束能力」という概念を軸に、包括的ビジネス成功の原則を考えてみよう。


 途上国市場において経済的利益の実現と開発課題の解決という双方で成功している企業に認められる属性の一つに、ビジネスをデザインする当初から自社の事業活動が持つ「社会性」へのセンシティビティ(感受性)が高いという点が挙げられる。ここで言う自社の「社会性」とは、製品や事業プロセスが自社を取り巻く多様な利害関係者に与える影響を意味する。その社会性をあまねく事前に想像し、それら利害関係者との関係性を活用しながら事業開発する能力が高いということである。この能力が今回のテーマになる。

 筆者はそうした能力を総称して「社会経済的収束能力(socio-economic convergence capacity)」(後述)と呼び、個々の企業間でその保有状況にはばらつきがあり、また後天的に学習することも可能だと考える(ⅰ)。この社会経済的収束能力とは、次の3種類の能力によって構成される。

 1)自社の製品サービスが有する社会性を用いて外部非営利組織(非営利団体、政府、国際機関等)からの資源獲得(提携協力や補助金等)を可能にする能力、2)自社が事業に投入する、より経済目的の強い経営資源やノウハウを、自社の社会的成果へも結実させる能力、3)自社や提携する外部非営利組織が事業に投入する社会目的の強い経営資源やノウハウを、自社の経済的成果へも結実させる能力を意味する。(実はこの社会経済的収束能力とは、いかなるビジネスに対しても一般化可能な概念である。)

 これら3つの能力を因果関係に表現すると下図のようになる。

        (図1)社会経済的収束能力を含む因果関係


 これらの能力が実際に発揮されると、どのようなメリットがあり、どのようにより大きな成果が実現するのだろうか。以下、個別に検討する。