次に「学び手との交流」が楽しい。感謝されたり、質問されたり、学習者の属性や正答率など統計データを見たりしたい。多くの作り手は、自分の制作物を学ぶコミュニティからの承認に純粋な喜びと達成感を感じる。それがつくり続けるモチベーションにもなる。

 さらに上手に「お金を稼げる」オプションが用意されていればよい。学び手への課金や広告売上の作り手への配分がこれにあたる。特に作り手が法人の場合、質問対応などを含め、質の高いコンテンツを維持するために課金が必要となることも現実として多い。

 基本的には、これら3つ(①知識の披露、②学び手との交流、③収益が上がる)の機能が初期のコアな価値となる。「多くの生徒(学び手)をここで集められる」ということが声高に謳えれば最高だが、場そのものが集客力を持つのはコンテンツが集積し、一定のブランドが確立した後だ。むしろ最初は、作り手自身に集客してもらう必要があり、そのためのツールやインセンティブを準備する方が必要である。

渡辺 雅之
(わたなべ まさゆき)

京都大学在学中から発展途上国20数カ国を渡り歩き、難民支援NPOに住み込みで長期インターンをするなど経済格差や教育問題に強い関心を持つ。卒業後マッキンゼーに入社。1999年に同僚の南場・川田によるDeNA創業に参加し、以来一貫して事業戦略、マーケティング、新規ビジネスを担当。2010年に退職し渡英。ロンドンで学習プラットフォームサービス『Quipper』を創業しCEOを務める

 もう一方の学習者(学び手)にとって中心的な価値は何だろうか。これは簡単で、「自分の学びたい学習コンテンツが提供され、それを効率的に学習できる」ということであろう。

 そのためには、まず個々人に適したコンテンツを選べるだけの品揃えと、賢い検索機能や推薦機能が必要になる。そして効率よい学習を実現するために、復習機能やブックマーク、暗記支援、辞書などの使い勝手を良くし、優れたツールにしなければならない。もちろん、これらの機能は誰もがどこでも利用できるようにするためiOS、android、WindowsやMacなどさまざまなOSの、スマホ、タブレット、ブラウザなどさまざまな画面サイズで提供されるのが望ましい。

 Quipperでは、作り手と学び手に双方に核となる機能を、優先順位やスペックのありようを悩みながらもトンチンカンチンつくってきて、今はちょうど基本的な機能が一通りできたタイミングである。世界中を見てもこの分野(ドリル型学習、マルチデバイス、オープンプラットフォーム)では、ほぼ唯一とも言える質の高いサービスを提供できていると自負している。コンテンツの作り手からの引き合いもたくさんいただいている。

 しかし、こういった基本機能は学習プラットフォームとしての大前提でしかなく、まだまだここからが勝負なのだ。作り上げたサービス基盤のうえに、独自学習メソッド、ゲーム要素やソーシャル要素、模試や検定などアセスメントや第三者監督といった、付加的な機能を載せていかなければならない。