予測市場の事例を提示する書籍の紹介連載、第3回。そもそもなぜ、専門家に頼ることをやめ、見も知らぬ膨大な人々の「知恵の数」を信用するようになったのか。そこには興味深い歴史があった。
三人寄れば文殊の知恵
──日本のことわざ
さまざまな形態がある予測市場は、ビジネスの世界ではもっとも理解の進んでいない概念のひとつだ。本書でこれから紹介する例の中には、エコノミスト、ナショナルジオグラフィック、タイム、そのほかの大手ビジネス誌で紹介されたものもあるが、予測市場と聞いてライト・ソリューションズのような用途や、グーグル、インフルエンザの流行予測を思い浮かべる読者はほとんどいないはずだ。
実をいうと、予測ビジネスには長い歴史がある。ギリシャ神話では、地母神ガイアが最初の予言者として描かれている。パルナッソス山麓のデルフィに住むガイアは、深い洞察力を発揮し、神々や王の行動を予言した。ガイアの力を借りることのできない21世紀の企業や政府は、明日、翌月、翌年の出来事を自分で予測しなければならない。部門を超えたチームやオープンなフィードバック・システムは存在していても、ビジネス組織は重要な問題に関する従業員のアイデアを集めるのが苦手だ。過信、ウォール・ストリートのアナリストからの圧力、リスク回避、凶報を握るキーマンが暗殺されるかもしれないという不安──それらすべてが貴重な情報の流れを澱ませている。
証券アナリストは、正しい判断と同じくらい間違った判断もするし、政府の専門家は、イランの革命、ベルリンの壁の崩壊、アフガニスタンのタリバンの復活、2007~2009年の世界的な信用危機を予測できなかった。
これほど成績が悪いのには理由がある。未来の出来事はあまりにもランダムで予測できないのだ。あるいは、従来の予測方法が当てにならないからかもしれない。私たちはスペシャリストや専門家に頼るのをやめ、膨大な数の人々の知恵を集約するといった、別の方法を試すべきだろう。そのために、企業や組織が実験的に取り入れているのが予測市場なのだ。