予測市場の事例を提示する書籍の紹介連載、第4回。衆知に頼るといっても、そもそもそのデータはあてになるのだろうか。大統領選の予想もよく間違えるではないか。しかしデータを扱う技術は日進月歩で高まっている。
予測市場が知らせるものは何か
市場の有効性を理解するには、その結果を理解する必要がある。結果の本当の意味とは? 予測市場のもっともよくある批判は、発生の確率が高いと予測された出来事が、実際には起こらなかったという指摘だ。天気予報がその典型的な例だ。「天気アナウンサーは降水確率90パーセントと言っていたのに、1日中晴れていたじゃないか」と。
しかし、それは的外れな指摘だ。降水確率90パーセントと予測された日々の中で、9割の日に雨が降れば、天気アナウンサーは正しいことになる。すべての日に雨が降ったとしたら、その天気アナウンサーは?つきということになるのだ。
自分の判断が下級社員の総意によって否定されることにイライラしている経営者が、「ほら、だから言ったじゃないか」と言うときには、たいていこの〝天気アナウンサーの誤解〟が根底にある。
実際には、高確率な出来事の中には、発生しないものも必ず存在する。そうでなければ、「高確率」と予測したシステムに欠陥があることになる。次の場面を考えてほしい。全米プロバスケットボール協会(NBA)は、年1回、新しい選手を獲得するためのドラフトを開催する。シーズン中の成績が悪かった14チームが、まず抽選で指名順位を決める。勝ち星の低い順番に指名するという方法は取っていない。そうしてしまうと、下位のチームは、プレーオフに進出できないとわかったとたんに、わざと負けを繰り返して指名順位を高くしようとするからだ。
代わりに、くじを使った抽選が行なわれる。有名な例でいえば、NBAの2007~2008年のシーズンで最下位だったマイアミ・ヒートは、1位指名権を引く確率が25パーセントだった。一方、下から9番目の成績だったシカゴ・ブルズは、1・7パーセントの確率だった。この確率を見て、誰もが──特にマイアミのバスケットボール・ファンは──ブルズより先にマイアミ・ヒートが指名できると考えた。
2008年6月、予想に反して、シカゴ・ブルズが抽選で1位指名権を獲得し、メンフィス大学のデリック・ローズを指名した。1位指名権を獲得する確率がブルズより15倍も高かったマイアミ・ヒートは、2位指名となった。2011年、デリック・ローズは最年少でNBAのMVPを受賞した。
このドラフトの結果には不正があったのか? そんなことはない。NBAのドラフト抽選を100年間行なえば、最下位のチームが1位指名を獲得するのは25回だ。そのほかの75回は、残り13チームのいずれかが獲得することになる。