条件付き質問にも答えられる

 単一の出来事を予測するというのは、予測市場の無数の使い道のひとつにすぎない。予測市場は、「もし○○なら、××はどうなるか?」といった条件付きの質問を考えるのにも役立つ。たとえば、「連合軍がイラクに侵攻したら、原油価格はどうなるか?」といった具合だ。「もし○○なら、××はどうなるか?」というタイプの予測市場では、「xが発生したら、yはどうなるか?」と「xが発生しなかったら、yはどうなるか?」というふたつの相補的な質問が掲げられることになる。xとyは自由に選んでかまわない。たとえば、xを「軍隊のアフガニスタン撤退」、yを「S&P500の値」としてもよいし、xを「北極野生生物国家保護区での掘削許可」、yを「ガソリンの価格」としてもよい。

 これらの結果が政治的な議論においてどれだけ役立つかを考えてほしい。たとえば、2007年に実施された予測市場で、アメリカ軍がイラクから撤退した場合にはS&P500(訳注/アメリカの代表的な株価指数)が1700に達し、しなかった場合には1450にとどまるという予測が出たとしよう。これはつまり、アメリカの軍事政策が株式市場に及ぼす経済的影響が、S&P500で250ポイントの差となって表れたことになる。このような条件付きの質問を使えば、ほかの方法では調べようのない問題を調査できるわけだ。2012年にミシェル・バックマンがバラク・オバマを破ったら、住宅市場はどうなるか? この市場は、少なくとも選挙の1年前に実施されれば、〝ガーベッジ・アウト〟になるかもしれない。しかし、それこそが条件付き市場の考え方なのだ。

 企業の予測市場の大半は、ひとつの組織の中にしか存在しない(その理由は付録の「アメリカ予測市場が抱える法的問題」を参照)。しかし、この状況は変わる可能性もある。もし、ライト・ソリューションズがミューチュアル・ファン・マーケットを社外に拡大し、顧客、サプライヤー、軍や国土安全保障省の技術団体など、ライト・ソリューションズの社員以外の協力者たちから情報を求めたとしたら、どうなるだろうか? 世界の軍事組織からアイデアを集められるとしたら、何を実現できるだろう?

(つづく)

 

*本書に解説を寄せた静岡大学情報学部 佐藤哲也准教授(自身も2007年から選挙予測サイト「shuugi.in」等を開設)による記事はこちら

ORACLES by Donald N. Thompson
Copyright (C) 2012 Harvard Business School Publishing Corporation
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