組織の1人ひとりに長期的価値を意識させ、社会的価値の創造に取り組ませるために、CEO自らが範を示すことができる。P&Gの名物経営者A・G・ラフリーが取った行動を紹介しよう。


 CEOは、会社全体が長期的な社会的価値の創造に注力するよう、自ら、あるいは企業として行動をもって示すとよい。社会的価値の創造は間違いなく株主の利益にもなる。

自らの行動で示す

 組織で働く人々はリーダーの行動を観察し、そのやり方を真似するものだ。だから、CEOは「望ましい行動のモデルとなる」という強力な手段を用いることができる。

 P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)の著名なCEO、A・G・ラフリーは、P&Gの海外拠点を回る際は、その地域の消費者の家庭を訪問することにこだわった。すると経営幹部たちも、CEOがそうするなら自分たちもそうすべきだと気づいた。また、ラフリーは自身の株式による報酬を、P&Gからの引退後10年間、毎年10分の1ずつ受け取ることを取締役会と取り決めた。これにより社員は、P&Gは非常に長い期間を見据えること、短期的な報酬へのこだわりはCEOらしくないというメッセージを間違いなく受け取った。

 さらに、ラフリーは株主価値についてごく稀にしか話さず、その際もP&Gの業績から派生するものとして言及し、その業績は消費者からの信頼を勝ち取り、強力なブランド構築を行った結果であるとした。すると、P&Gの従業員は、ラフリーは株主価値を大切にしてはいるが、それは目標というよりも、彼がP&Gに求めるものの結果にすぎないと理解するようになった。

企業として示す

 個人の行動のみならず、CEOの行動は企業全体のものとして示すこともできる。たとえば、ラフリーはP&Gのオフィスから株価表示機を取り外した。前任者が株主価値の最大化を従業員に意識させるために、P&Gのすべてのオフィスに設置したものだった。加えて、これは月並みに思えるかもしれないが、「企業目的」の文章に「現在そして未来の」という言葉を付け加えた。これにより、P&Gが非常に長い期間を見据えていることを従業員に理解させた。

「私たちは、現在そして未来の、世界の消費者の生活を向上させる、優れた品質と価値をもつP&Gブランドの製品とサービスを提供します。その結果、消費者は私たちにトップクラスの売上と利益、価値の創造をもたらし、ひいては社員、株主、そして私たちがそこに住み働いている地域社会も繁栄することを可能にします」(以上はP&Gの日本語ウェブサイトから引用)