本誌2013年9月号(8月10日発売)の特集は「集合知を活かす技術」。これに合わせ、HBR.ORGから集合知に関する記事6編をお届けする。第3回は、企業が気づいていない専門知識のありかについて。特定の分野の真ん中にいる専門家よりも、周縁部にいるクラウドの知を活用し成功した事例を紹介する。
「専門知識がどこにあるかは、わかっている」――企業や経営者は、よくこの言葉を口にする。これはきわめて有害な思い込みのひとつだと、近頃私は考えている。クラウドソーシングやオープン・イノベーションの取り組みの成果を知るうちに、こう確信するようになった――問題や課題をできるだけ大勢の人たちにさらけ出し、彼らに何ができるかを示してもらうことこそが、洗練された戦略だ。このアプローチの威力を示す最近の事例を紹介しよう。
オンラインのスタートアップ企業カグル(Kaggle)は、企業が提起した困難な問題を解決するためのデータ・サイエンスのコンテストを開催し、世界中からさまざまな人たちの参加を募っている。参加者は、企業が提示した予測モデルのベースラインよりも優れた予測を実現することを目指して競い合う。このコンテストによって実際に得られた成果には、いくつか特筆すべき点がある。
ひとつには、参加者の予測はたいてい、企業が提示したベースラインをかなり上回っている。たとえば、保険会社のオールステートは、車種ごとのデータを提出し、将来に同社に対して個人賠償請求を求める可能性のある車種を予測するよう、カグルのコミュニティに求めた。コンテストは約3カ月続き、参加者は100人を超えた。優勝したアルゴリズムの予測精度は、同社の既存モデルを用いた予測を270%以上も上回っていた。
ほかにも興味深い事実がある。カグルのコンテストのほとんどで勝者となっているのは、その課題領域の専門家ではなく、周縁にいる人たちなのだ。たとえば、病院への再入院率について最高の予測を行ったのは、ヘルスケアの経験をまったく持たない参加者であり、従来の取り組みでは頼られることのなかった人たちだった。これらの明らかに有能なデータ・サイエンティストは多くの場合、その専門知識を新たな、完全にデジタルな手段で獲得している。