顧客はどんな用事を足すために、その製品・サービスを求めるのか。それを見極めビジネスチャンスを特定するための「5つのC」を紹介する。
「顧客はどんなタスク(用事)を果たそうとしているのだろうか?」
この単純な問いが、イノベーションを実現させる有力な手段となる場合がある。なぜなら、購買と利用を「関連づける」ように見える表面的なデータを超えて、購買と利用を「動機づける」不満や欲求に焦点を当てざるを得なくなるからだ。
この方法は魅惑的なほどに単純で、実はビジネスチャンスを特定する条件を備えている。「果たすべきタスク」というコンセプトをさまざまな状況で活用してきた経験から、私と同僚はイノベーターを目指す人々に役立つ5つの要諦を導き出した。「ビジネスチャンスの5C」である(マーケティングの4P――価格、製品、流通、プロモーション――になぞらえたものだ)。
1.状況(circumstance)
顧客が抱えている具体的な問題は何か。そして顧客はどの方法によるソリューションを求めているか。これらは状況に大きく左右される。子どもの耳が細菌に感染していないかどうか知りたい親と、腕を骨折した人では、思考や行動はまったく異なる。最初の状況であれば、ミニッツクリニック(スーパーなどの店内にある簡易的な診療所)のような、簡便さに重点が置かれたキオスク型店舗での診察が適しているだろう。だが骨折の場合は明らかにそれでは不十分だ。果たすべき「タスク」を一方の軸とし、もう一方の軸を一般的な「状況」として、シンプルなマトリックスを作成するとよい。これはイノベーションの機会を可視化する簡単な方法である。
2.コンテクスト(context)
顧客に過去の体験を尋ねても、現実を把握することはできない。また将来の行動について尋ねても、正確ではない当て推量しか得られない。イノベーションに関する深い洞察を持つ、元プロクター・アンド・ギャンブル幹部のカール・ロンはこう述べている。「人は日常的な雑事をどうやっているかなど、意識して覚えていないものだ」
肝心なのは、コンテクスト(文脈)をとらえることだ。顧客が問題と遭遇する場に、一緒に居合わせる方法を考えよう。そして顧客が問題をどう解決しようとするのかを、観察するのだ。P&Gの〈スイッファー〉と〈ファブリーズ〉を10億ドル規模のブランドに育て上げたロンは、大規模なフォーカスグループを使うよりも、少規模でもコンテクストを考慮した観察調査を行うほうがずっと価値があると考えている。
3.制約(constraints)
消費を阻んでいる障壁を迂回する、独創的な方法を見出そう。これが成長への道筋のひとつであることは、過去に実証されている。サウスウエスト航空の割引運賃は、それがなければバスを利用する顧客、あるいはそもそも旅行に出かけることさえなかったような顧客を引き付けた。そして任天堂の〈Wii〉は、家族で楽しめる簡単な娯楽を求めていた人々を魅了した。これらは「制約」に着目して成功した事例である。注意点として、顧客が消費していない理由を理解することが、決定的に重要だ。いまあるソリューションが高額すぎたり、特別なスキルを必要としたり、あるいは不便であるのが理由ならば、イノベーショを目指すべきだ。だが、顧客の無関心が理由であれば、期待するほどの成功は難しいかもしれない。