リンダ(筆者の1人)はある時、グローバル規模の投資銀行で経験豊富なトレーダー陣を率いる投資マネジャーを支援したことがある。彼は当初、特定のポジションの売買や個々の投資戦略についてチームに詳細な指示を与えようとしていた。ところがチームは、自分たちが注力する海外市場の多くについて、このマネジャーが経験不足であることを知っていた。チームは彼の指示に抵抗し、その根拠について説明を求めた。彼は部下たちの抵抗を自分の権威に対する挑戦と捉え、両者の間に敵対意識が生じた。
しかし、彼は海外市場についての自分の知識が十分でないことを自覚していた。そこである日、1人のトレーダーに価格設定 についての説明を求めた。トレーダーは喜んで説明に時間を割き、終業後にさらに詳しく説明することさえ申し出た。マネジャーはのちに、この出来事が重要な洞察を与えてくれたと語っている。この日以来、彼はただ指示を出すのではなく、質問をして学ぶようになった。そして彼がより多くを学ぶにつれて、トレーダーたちが彼の決定に疑問を持つことも減り、チーム内の緊張も和らいでいった。
間違いや無知を認めるべき2つめの理由は、信頼の問題である。マネジャーとして人を動かす能力の基盤となるのは、正しい行いをする上司であると見なされることだ。あなたが知ったかぶりな態度を取ったり、他人の専門知識を評価し活用することを怠ったりすれば、人々はあなた自身やその判断を信用しなくなる。あなたの知識が欠如していること――あるいは、間違っていること、過ちを犯したこと、助けを必要としていることは、周囲の目には明らかなのだ。あなたがそれを理解し率直に認めれば、人々は安心感を覚える。上司に期待されているのは、ビジネスの原理を理解し、適切な判断を下すのに十分なだけの知識を持っていることである。誰よりも詳しい専門家である必要はないのだ。
しかしこの問題は、マネジャーにとってデリケートなものでもある。自分に足りないところを認め学ぼうとするマネジャーの姿勢に、人々は敬意を払うであろう。その姿勢がなければ信頼を得ることは難しい。だがその一方で、弱みや過ち、曖昧さを過度に表明してしまっても、マネジャーとしての信頼は損なわれる。状況に合わせて適切なバランスを見つけ、プラスとなる行動を取り続けなくてはならない。いずれか一方に極端に傾くと、優れた上司でいることは難しくなる。
HBR.ORG原文:The Words Many Managers Are Afraid To Say February 23, 2011

リンダ・A・ヒル(Linda A. Hill)
ハーバード・ビジネススクールのウォーレス・ブレット・ドナム記念講座教授。経営管理論を担当。主な著書にBeing the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。
ケント・ラインバック(Kent Lineback)
著述家。リンダ・ヒルとの共著Being the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader(邦訳『ハーバード流ボス養成講座 優れたリーダーの3要素』日本経済新聞出版社)がある。