連載第3回目は集合知をどのように事業開発へ活かすのか、ナインシグマの皆様にも執筆して頂きました。帝人やNTTの事例を通して、社外の「知」の活用方法について探ります。
さて第3回では、ナインシグマ・ジャパンとの共同連載による「事業開発への集合知の活用」を紹介したい。
簡単にナインシグマを紹介する。ナインシグマはオハイオ州クリーブランドに本拠地を置くオープン・イノベーションを支援する世界的な技術仲介企業である。社員の多くが工学系の博士号(Ph.D.)を所有し、グローバルな規模で技術仲介だけでなく、デザイン・エージェンシー等と連携しながら新商品開発や新サービス開発も行っているイノベーション・カンパニーだ。
この会社の日本法人の代表である諏訪暁彦氏は、マサチューセッツ工科大学大学院 材料工学部修了後にマッキンゼー・アンド・カンパニー、日本総合研究所を経て、2006年にナインシグマ・ジャパンを立ち上げ、これまで国内90社以上の大手メーカーのオープン・イノベーションを支援してきた実績を持つ。
第3回の連載では、ナインシグマ・ジャパンによる帝人とNTTの事例から、事業開発への「集合知」の活用方法を紹介する。
1. 事業開発への「集合知」の活用方法について
(文責:ナインシグマ・ジャパン 諏訪暁彦、中井博之、河崎雄介)
帝人は、アパレル用途で自社開発したナノ繊維「ナノフロント」を、医療機器メーカーと共同で縫合糸や人工血管といった新しい用途に展開すべく開発を進めている。
この開発は、帝人にとってはナノ繊維事業を拡大する可能性があるだけでなく、グループ会社の帝人ファーマで販売する製品になる可能性を秘めた魅力的な開発テーマだ。
ここで興味深いのは、帝人の「医療用途で自社のナノ繊維の事業化開発」の検討が、公募によって共同開発を呼び掛けて得られた提案を元にしてなされたことにある。
NTTは、「ユバタス(Jubatus)」 というビッグデータをリアルタイムで深く分析できる基盤技術を開発したのだが、この開発には、東大の学生が立ち上げたベンチャー企業のスキルと若いアイデアが大きく貢献している。さらに、学生を対象としたユバタス活用コンテストによって、NTTだけでは想像もできなかったような使われ方に発展してきているという。
多くの企業にとって、今の会社を支えている事業の多くが成熟期を迎え、次の成長事業の創出は優先度の高い課題となっている。しかし、仮に自社に優れた技術の基盤があっても、新しい領域で事業を成功に導くだけの市場を理解する力や、競争力のある製品やサービスに結びつけるための技術改良や補完技術の獲得は難しく、多大な時間がかかる、というのが従来の事業開発の常識である。
しかし、先ほどの事例では、その重要かつ難しい活動の一部を公募の形で外部に問いかける方法や、学生の力を活用する方法によって成し遂げることができた。たしかに従来から、デザインコンテストなど、大衆の知を活用した企業活動は存在した。しかし、それらはあくまで事業の一部、それも手を挙げる側にも大きなコミットメントや時間的な制約が発生しない周辺的な領域が多く、また学生の力の活用も偶発的なものであった。果たして、帝人やNTTが実現した事業開発における社外の「知」の活用は狙ってできるものであろうか?
結論から言うと、成功率を高める鍵と、役立つツールは存在する。しかし、それを使いこなすためには、それぞれのケースの難しさを正しく認識することが重要なのでその解説から始めたい。