デフレ脱却と政府は旗を振るものの、その実、輸出頼みの伝統的な、メリハリのないアイデアしかないように見える。「社会システム・デザイン」のアプローチを用いて考えてみると、どうなるか。元マッキンゼー東京支社長であり、東大エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)で次世代リーダーを育成している横山禎徳氏の好評連載、第7回。
これまで「社会システム・デザイン」というアプローチでいろいろな課題設定と解決をすることが可能であることを説明してきた。扱ったいくつかの例は考え方の方向を示すことが中心であり、まだまだ荒削りのデザインである。本来のデザイン作業はもっと細かいレベルでの仮説・検証の繰り返しによる練り上げをしていく必要があるのは言うまでもない。その具体的な作業の説明よりは、このアプローチの広がりを残りの二回で考えてみよう。
輸出で成り立っているという誤解
現在、日本政府が考えているデフレ脱却を捉えてみる。デフレ脱却とはつまるところ国内消費が拡大することで解決するより手はない。日本経済は巨大な国内経済なのであり、輸出依存で日本経済が成り立っているというのは誤解である。バブル後の経済低迷期に入るまで、GDPに対する輸出の貢献度は9%であり、アメリカに次いで世界で二番目に低かった。現在は、国内消費の低迷のため、輸出の貢献度は約15%まで上がっているが、相変わらず、ドイツ(41%)や中国(25%)、韓国(49%)に比べるとはるかに低いのである。
国内消費を増やすためには伝統的な産業振興の視点から消費振興の視点に大きく転換するしかないのだが、そのためのメリハリの効いた施策が出てこないのが問題だ。安倍政権の「第三の矢」も間違ってはいないが、消費拡大に結びつくような施策ではないし、みんなの気分が高揚し、行動を起こす誘因となるようなパンチの効いた斬新な発想でもない。
ここで、「社会システム・デザイン」のアプローチによる私案を提示してみる。十分時間をかけて練り上げたものではないので、欠陥だらけではあろうが、少なくとも「社会システム・デザイン」的に発想すると新しい視点を提供できることを示すのが目的である。外国のヒト・モノ・カネを積極的に呼び込み、国内の設備投資と消費を拡大するための戦略的発想であり、「産業空洞化」という視点から脱却することもその重要な側面だ。
日本は中国に次いで二番目に大きい120兆円の外貨保有がある。それに貢献した鉄鋼、自動車、電機・電子、精密機械の4つの業種の企業が競争力を維持するために必要な機能を日本以外に移すのは妥当な企業判断であり、「空洞化」という情緒的、かつ定義のあいまいな表現で企業の足を引っ張るべきではない。海外で活動したほうがいいものは積極的に出ていき、一方で、国内に外国のヒト・モノ・カネを大量に呼び込む。「クール・ジャパン」のようなモノからソフト、コンテンツに変わるだけの伝統的な輸出振興発想ではなく、メリハリを利かせた発想の転換をすべきだ。
そのような視点から、「医療活動集積システム」、「電力需給バランス・システム」、「商業芸術集積システム」、「外国人観光客リピート・システム」、「海外物流取り込みシステム」の5つの「社会システム・デザイン」を提案する。