女性が野心を追求する場合、多くの犠牲が強いられる――この固定観念にとらわれて途中で諦めるのは間違っている、とヒューレットは主張する。


 映画『ブラック・スワン』のなかで主役を欲するニナを演じたナタリー・ポートマンは、実生活でも栄誉を勝ち取ろうとしている。ハーバード大学卒の彼女は、来たる2月27日のアカデミー賞で主演女優賞を獲得すれば、その野心を成就させるだろう(注:ポートマンは2011年のアカデミー賞で実際に主演女優賞を獲得)。なお素晴らしいことに、彼女は第1子を妊娠中で、共演者であり振付師でもある男性との結婚も近い。望みのすべてを追求し実現することを恐れず、それらを手にするであろう、才能豊かで意欲的な若い女性がここにいる。

 しかし、野心を追求する女性は、決してポートマンのようには描かれない。「女性の野心」というイメージを体現するのは、『ブラック・スワン』の主人公ニナのほうである。自分のことしか考えず、冷淡で感情の起伏が激しい。認められたいという願望が強すぎて、成功するためにすべてを投げ打ち、やがては自分を壊してしまう。たしかにこのようなキャラクターはドラマを盛り上げる。だが、職場で現状を打破しようとする女性は激しく闘う、というステレオタイプを定着させることにもなる。

 このステレオタイプは、野心を「権力欲の表れ」と見なしている。これは、技能の熟達と正当な評価を追求すれば、得るものよりも犠牲のほうが多い、という考えを示唆するものだ。ニナのような人物が象徴するのは、こうである――野心を追求すれば、あらゆる有意義な人間関係が損なわれ、極限常態まで追い詰められ、何が大事かもわからなくなり、願望は歪んだ方向へと向かい、夢が台無しになるかもしれない。

 悲しいことに、あまりにも大勢の女性がいまだにこのステレオタイプにとらわれている。そのため、仕事でトップを目指そうとすることに葛藤を感じてしまうのだ。センター・フォー・ワーク・ライフ・ポリシー(CWLP)が2010年に行った調査によれば、女性はキャリアの初期においては、男性と同じくらい熱心に成功を求めている。30歳以下の女性では、47%が自分を「とても野心的だ」と考えていた(男性の場合は62%)。しかし、この情熱の炎は途中で燃え尽きてしまうことが多い。特に育児期間中に、職場での昇進を求める野心と、家庭生活を充実させるという夢とが、真正面からぶつかるからだ。40歳以上の有能な女性で自分を「とても野心的」としたのは、32%にとどまった(男性は46%)。

 CWLPのフォーカス・グループに属する女性シニア・マネジャーたちによれば、何年もの間、懸命に出世のはしごを登ろうと努力してきたが、いまではトップになりたいとは思わなくなっているという。非常に立派な実績を持つある女性幹部は、「私はCFOになれるのかもしれないけど、いまのままで満足よ」と打ち明けてくれた。