本誌2013年11月号(10月10日発売)の特集テーマ「競争優位は持続するか」に合わせ、MBA必読の古典『企業成長の理論[第3版]』の抜粋を紹介する連載(全7回を予定)。本研究の目的についてのイントロダクションを2回に分けて紹介する。
本研究の目的
私の知る限りでは、企業成長に関する一般理論の構築を試みた経済学者はまだいない。このことはきわめて奇妙に思えるが、要はこの研究を試みる者は誰もがよくよく用心すべきだということに違いない。というのは、経済学者が何を研究し、何を研究しないかには、常に賢明な理由がある。もしかするとこのような理論は、構築することが不可能であったり、不必要であったり、取るに足らなかったり、あるいは経済学の本流から逸れていたりするのかもしれない。それは私にはわからないが、私はこれら4つの可能性がいずれも否定されることを願いながら、この研究を提示する。
本書は企業の成長について論じていくが、企業の規模については付随的にしか触れない。「成長」という言葉は、通常2つの異なる意味合いで用いられている。たとえば、生産、輸出、売上高の「成長」というような場合には、単純に量の増加を意味する。しかし、この言葉は、ある発展のプロセスの結果としての規模の増大や質の向上を含んだ本来の意味合いで用いられることもある。自然界の生物がたどるプロセスに近いこの発展のプロセスでは、相互に関連する一連の内部的変化が、成長主体の特徴の変化をともないながら規模の増大をもたらす。したがって、「経済成長」と「経済発展」という言葉は、「成長」が一国の生産量の増大だけでなく経済の前進的変化をも意味する場合には、しばしば互換的に使われる。この2つ目の意味での「成長」には、しばしば「自然な」あるいは「正常な」という意味合い、すなわち、諸条件が適合的であれば、その「有機体」の性質ゆえに常に生じるプロセスという意味合いが含まれる。この場合、規模は、多かれ少なかれ、継続的に進行していく、あるいは「徐々に展開していく」プロセスに付随する結果となる。
しかし、伝統的な経済分析においては、企業の規模はこのような見方では考察されていない。そこでは、ある特定の規模であることの優位や劣位が検討され、また、ある規模から別の規模への移行について、異なる規模間の正味の優位性の差という観点から説明される。成長は、所与の条件に合う規模への単なる適応とみなされていて、そこには、ある1つの方向への累積的な動きを導くような内生的発展プロセスという考え方はない。さらに、ある状態から他の状態に移ることには、1つの別の状態にあることの利点とはまったく別の利点があるかもしれない、という指摘もきわめて少ない。企業には、「最も収益性が高い」規模があるとしばしば仮定され、企業がどのように、また、なぜその規模に到達したかについては、利益追求以外に説明の必要がないものとされている。本研究では、企業の規模に対するこのような説明は退けられる。ここでは、企業の規模は成長プロセスの副産物にすぎず、企業の「最適」規模、あるいは最も収益性の高い規模すらもないと考える。後にみるように、伝統的な理論は企業規模の限界に関して常に問題を抱えてきた。われわれはきっとその問題の原因を見つけられるだろう。