企業が異なれば、最高経営陣の職務の数、範囲、性質にさまざまな違いがあることは明らかである。このような違いは、企業の構造、トップ・マネジメントグループの好みや野心、および臨機応変なアクションを要する外的変化に企業がどの程度直面しているかによって生じる。たとえば、変化のない環境では、最適な管理手続きの創出と一連の最適な方針の策定に成功した企業は、「最高経営陣」の目に見える関与なしに円滑に運営されるし、新たな任用でさえ、おそらくは決められた規定に沿って行われる。経営や監督の機能は、企業内のさまざまな階層のふさわしい担当者によって、管理組織や既定の方針「指示書」の示す枠組みのなかで実行される。このような状況では、適切な管理構造が確立されてしまえば、管理上の問題は「解決」される。
変化への適応は、いくぶん異なる問題を提起する。問題の一つのタイプは、「短期」の条件に対する調整、すなわち業務のなかで求められる日々や月々の意思決定で、いま1つのタイプは、「長期に及ぶ」変化に対する調整や「長期にわたる」方針の策定である。この2つのタイプの問題の間に明確な境界線を引けるわけではないが、前者の場合、大企業の最高経営陣が1つひとつ処理しえないほど多くの決定が確かに必要となる。その結果、企業内のほぼすべての管理的「職位」にこのような決定を認めるだけでなく、同時にさまざまな決定の間で高い一貫性が確保できるような組織構造や手続きが発達してきた。同様に、トップレベルに過度に決定が集中することなく、最高経営陣が長期的な問題に取り組めるような手法や手続きも生み出されてきた。
規模と管理上の調整
前述したどちらの種類の問題も効率的に処理できなくなるほど、企業が「大きくなりすぎる」ということがはたしてあるだろうか。この問題は、これまでもたびたび提起され、今なお議論されている。かつては、企業の規模が増大すると、マネジメントや「調整」が利益の減少や運営コストの増大を必然的にもたらす「固定的要因」となるような点に到達するだろうという考え方が広く受け入れられていた。この考え方の裏には、行動の一貫性を保つには「ぶれることのない」方向づけが必要であるが、単にどんな人間でもそうした能力には限界があるため、方向づけのできる範囲は明らかに限定されるという常識的な推論がおかれていた。しかしながら、個人の能力の限界が企業の規模を制限するという結論を支持する事実は、少なくとも明確に識別できる方法では示されていない。この「ぶれることのない一貫性」は、過去から引き継がれ、かつ、やはり過去から引き継がれてきた人々によって運営される適切な組織形態を通じて達成されるように思われる。彼らは伝統を共有し、組織にもお互いにも慣れ、それゆえに広い範囲で十分な首尾一貫性と効率性を備え、どの個人も細々とした仕事を把握したり指示したりする必要がないように機能する1つの実体を形成している。企業は、実質的な判断を要する非ルーティン的な意思決定が、基本的な統一性を損なうことなく企業内のさまざまな人々によって行えるように、自らの管理構造を変えていくことができる。この能力ゆえに、企業があまりに大規模もしくは複雑になりすぎて、効率的に経営できなくなるポイントが存在するということを断言することは、きわめて難しくなる。





