日本は世界的にも最も男性的価値観が高い国と評価されるようである(図表2参照)。しかし、その日本においても限定的とはいえ、企業の管理職や役員に登用される女性が増えている(図表3参照)。伝統的価値観・伝統的家族関係からの自由度が増し、自らの希望を持ちそれを実現しやすくなったという要因は大きい。女性の教育レベルは世界的に上昇し続けている。また、家計や国家経済のなかでの影響力という面でも重要である。とくに日本の場合は、生産人口が減少し続けるという長期的な事情があり、若年層の給与水準の低さを埋めるためにも共働きが増加している。保育園の待機児童問題に後手で対応するのではなく、積極的にワーキングマザーを支援する仕組みを作ることが、本来の少子化対策として重要なはずである。

 今後の社会環境において、教育の重要性はさらに高まる。教育への支出は世界的にみても増加傾向であり、とくにBRICsでは政府の教育支出の増大に応えるかたちで、大学以上の教育機関数、大学生の数も増大している。2008年の時点で、中国の大学数は2,000にすぎない(米国は4,000施設超)ものの、学生は2,100万人に達し、米国の1,400万人を大きく上回っている。また、インドは1万7,000弱の大学以上の教育機関を抱え、1,400万人弱の学生を抱えている。なお、日本の大学および大学院生は290万人である。人口比でみると、ようやく中国が日本に追いついてきつつあると言うことも可能であるが、BRICsその他の新興国各国が国を挙げて知的レベルを向上させ、国の力を蓄えようとしている様子が伺える(図表4参照)。

 ビジネスパーソンとしてのキャリアアップの観点からも、教育の概念が広がっている。一度就職してからさらに大学院やその他の教育を受けるために離職し、再度働くというキャリアパスを踏むケースも増えている。また、企業内での教育プログラムの一環として外部での教育に社員派遣するニーズも高まっており、日本企業ではとくに、役員候補あたりの年次の幹部社員にグローバルな教育機会を与えようという動きが出てきている。グローバルなビジネス環境で成功していくためには、国内の大学を出て、新卒入社して以降は外の世界を見たこともないという人材だけでは戦っていけるはずがない。海外ビジネスの責任者として外国人を雇うにしても、百戦錬磨のスタープレーヤーは転職歴も豊富であり、内向きな日本的人事システムにはなかなか整合しない。そうした外国人社員と伍していくためにも、中途入社組の活用や海外への派遣人事などを多様化させていくことが必要になる。

 かつての日本的経営においては、新卒一括採用、終身雇用、年功序列などの特徴があり、それによる意思疎通の緊密さが強みと言われていた。しかし、それらが強みとして機能していたのは終戦後から高度成長期までの30年程度の話である。今ではむしろ、日本企業のダイバーシティのなさがグローバル競争において不利になってきている。海外企業と伍して戦っていくうえでは、ライフスタイルの変革に合わせて、多様な人材の能力を活用できる人事制度に変えていかないといけない。

*本年の連載はここまで。第13回は2014年1月6日(月)公開です。

ブーズ・アンド・カンパニー
グローバルな経営コンサルティング会社として、世界のトップ企業及び諸機関に対し、経営レベルの課題を解決するコンサルティング・サービスを提供している。全世界57事務所に3,000人以上のスタッフを擁し、クライアント企業との実践的な取り組みを通じて、「本質的な競争優位」と「差別化された優れたケイパビリティ」の創出を支援することを使命とする。

 

【連載バックナンバー】
第1回「長期的ビジョンはなぜ必要なのか」
第2回「グローバル市場の変化を見通す」
第3回「グローバルな10のメガ・トレンド」
第4回「第1のメガ・トレンド 環境保護主義」
第5回「第2のメガ・トレンド 資源をめぐる戦い」
第6回「第3のメガ・トレンド 人口動態と富」
第7回「第4のメガ・トレンド 人口移動」
第8回「第5のメガ・トレンド 富の再配分」
第9回「第6のメガ・トレンド ビジネスのグローバル化」
第10回「第7のメガ・トレンド パワーシフト」
第11回「第8のメガ・トレンド さらに賢くなる個人」