本誌2013年11月号(10月10日発売)の特集は、「競争優位は持続するか」。HBR.ORGの関連記事の第7回は、高度集中型ビジネスモデルの優位性について。ニッチ戦略は欧米では主流ではなく、ドイツのみが例外であるという。ドイツ中小企業の成功要因は、日本の多くの企業にとって親和性が高いものかもしれない。
質問:単一の事業に特化して非常に成功している企業を、1つ挙げてみよう。
世のスポットライトを浴びる企業は、絶えず新市場へと拡大し、製品ラインを追加することで成長を遂げてきた、巨大な多角化企業であることが多い(P&G、GE、マイクロソフトなど)。しかし実際には、真に成功している企業は徹底した集中戦略をとっている。事業範囲を極度に絞り込んだビジネスモデルを設計し、1つのことに卓越するために学習を重ねることで、前例のないほど高い効率性を実現しているのである。
我々研究者の多くは、カナダのショールダイス病院という古典的なケースをいまだに教えている。同病院が扱うのは単純なヘルニア治療のみだが、その実践にかけては他の追随を許さない。もっと最近の例を挙げると、ベビー用品のみをオンラインで販売するダイパーズドットコム(Diapers.com)の運営会社、クイッツィ(Quidsi)がある。また、シンプルな金融サービスのみに特化しているネット銀行のINGダイレクトや、サウスウエスト航空を思い出す読者もいるかもしれない。同社はいまだに、1つの客席タイプ(エコノミークラス)と1機種(ボーイング737)に限定している。
極度の集中によって、複雑なプロセスと高額の設備が不要となり、未活用の(高価な)リソースも持たずに済む。その結果、サウスウエスト航空は競合他社よりはるかに速く飛行機を往復させ、INGダイレクトは何百もの実店舗を構えずに済み、ショールダイス病院はスムーズな施術プロセスのなかで、稼働してない時間や待ち時間を設けずに手術の予定を組むことができる。
こうしたメリットがあるにもかかわらず、実は集中型の企業は、欧米ではごく稀である。上記の例が当てはまらない複雑なコングロマリットのほうが、はるかに一般的である。
ただし、ドイツは例外である(ドイツ語圏の諸国も同様だが、集中の傾向はドイツが最も強い)。
ドイツ経済が驚くべき回復力を持つのは、「ミッテルシュタント」と呼ばれる中小企業に支えられているからだ、とする意見は多い。家族経営が一般的であるミッテルシュタントは、ドイツの民間部門の全雇用者数の70%を擁する。彼らは輸出志向で、ドイツが世界2位の輸出国である理由もここにある。元INSEAD教授で現在はサイモン・クチャー・アンド・パートナース会長のハーマン・サイモンは、著書『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』(中央経済社、2012年)の中で、ミッテルシュタントについて見事な報告をしている。彼は最近、INSEADで行ったプレゼンテーションの中で、こうした企業に共通する特徴をいくつか説明した。