新興国の追い上げ、国内顧客の高い目線に合わせすぎたハイスペック製品によるタコツボ化……この厳しい状況を、日本企業はいかに打破するか。一橋大学大学院 名和高司教授の好評連載の元となった書籍『学習優位の経営』の一部紹介する連載、第2回。


「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と畏敬され、日本企業の圧倒的な強さに「ジャパン・バッシング(日本叩き)」までとび出してから四半世紀。韓国、台湾、さらには、中国、インドなどのアジアの新興プレーヤーが急成長する中で、今や「ジャパン・パッシング(日本とばし)」が現実のものになっています。

  はたして日本企業は、いったいどこでつまずいたのでしょうか。

「二兎追い」戦略の限界?

 強かった頃の日本企業の勝ちパターンは、「いいものを安く」でした。その代表ともいうべきトヨタ生産方式の真髄は、徹底的に無駄を省く(リーン化)と同時に、高品質を実現する(スマート化)ことです。当時、欧米企業の多くが高付加価値化路線に走り、アジアの新興勢力が低コストを武器にしていたのに対して、価値とコストの両立を実現した日本型モデルは、企業戦略に革命をもたらしたと言っても過言ではないでしょう。筆者がアメリカや韓国に駐在していた1980年初頭から90年代初めの10年間は、このような日本企業の勝ちパターンが解明され、世界中で模倣された時代でした。

 しかし90年代以降は、コストと価値それぞれの軸で、日本企業を凌駕するモデルが次々と登場し、世界市場を席巻するようになります。

 コスト面では、事業モデルの革新が新しい勝ちパターンとなりました。その典型例が、デルやギャップに代表される「中抜き」モデルです。ウォルマートやフェデラル・エクスプレスも、需要直結型のサプライチェーンを整備することによって圧倒的なコスト競争力を確立しました。また、技術競争にしのぎを削るハイテク業界でも、マイクロソフト、インテル、シスコシステムズなどが、デファクト・スタンダードの座をいち早くつかみ、規模の経済によるコスト競争力を獲得しました。

 その一方で、台湾のTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company; 台湾積体路製造股?有限公司)や鴻海精密工業(ブランド名:Foxconn)に代表される受託生産事業者が、アジアでの大胆な先行投資と規模の経済による圧倒的なコスト競争力を武器に、「世界の工場」の座につきます。日本企業が既存のバリューチェーンの改善に専念している間に、まったく異なるコスト構造を持った事業モデルが、競争のルールを根底から覆してしまったのでした。