ユニクロ、トヨタならずとも、日本企業が勝ち残ることは可能である。「本業対拡業」という考え方ではなく、いかに「本業と拡業の両立」を目指す非デジタルな思考を取りうるか。一橋大学大学院 名和高司教授の好評連載の元となった書籍『学習優位の経営』の一部紹介する連載、第3回。

 

トヨタは蘇るか

 では、かつての日本企業の強さを代表していたトヨタ自動車(以下、トヨタ)は、どうして失速してしまったのでしょうか。ここ数年、世界制覇に向けて成長のアクセルを踏み込んでいく中で、価値とコストの良循環という成功の方程式から逸脱していったことが、問題の本質だったのではないでしょうか。

 IT技術の急速な進展に伴い、いかに高度な機能をクルマに実装していくかが、トヨタが追い求める価値の主軸となってきました。その結果、カローラのようなボリューム・ゾーンのクルマにも多様な機能が盛り込まれ、コスト構造をどんどん押し上げていったのです。トヨタの豊田章男新社長自身、「最近のトヨタは、消費者の値頃感に合った商品づくりを怠ってきた」と自戒されています。商品開発にあたって、高付加価値化を優先し、コストをその従属関数として捉えてしまったところに、トヨタのつまずきがあったのです。

 お家芸であったはずのTPS(トヨタ生産方式)ですら、磐石ではありません。実需見合いで生産することこそ、TPSの本質だったはずなのですが、右肩上がりの成長を前提に設備能力を増強してしまったため、需要が急激に落ち込んだとたんに過剰な固定費が重くののしかかる構造になってしまいました。また、世界中に事業が広がったことから、あちこちで生産管理や品質管理に問題が発生したことなど、トヨタ一流の筋肉質な事業モデルのほころびを示しています。

 豊田章男新社長のもと、トヨタは今回の危機を乗り切るために「原点回帰」を標榜しています。顧客価値に見合ったコストのつくり込みという、トヨタならではの勝ちパターンを取り戻すことは、再生に向けた重要な第一歩となるでしょう。

 豊田章男社長は、トヨタ自身への自戒も込めて、こう語ります。

「顧客が何を欲しがっているかをとらえ、技術を安く提供できる会社が、今後100年を生き抜いていける」(1)