新興勢力に世代交代を迫られながら生き残る方法とは? 顧客が本質的に求めている価値を常に追い求め、コスト構造を徹底的に絞り込み続ける「スマート・リーン」型の事業にその活路がある。一橋大学大学院 名和高司教授の好評連載の元となった書籍『学習優位の経営』の一部紹介する連載、第4回。

 

ポーターモデルの限界

 企業戦略の一般論としては、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授の競争戦略論が古典的となっています(1)。筆者が同ビジネススクールに通った1980年代後半、ポーター理論は絶対的な権威を持っていたと言っても過言ではありません。

 ポーター理論によると、企業は、「低コスト」か「差別化」、もしくは「特定分野(ニッチ)への集中」のいずれかを基本戦略に据えることが必要だとされます。さらに、特定分野に集中する場合にも、コストか差別化のどちらかに軸足をおくべきとされています。

 図1は、この戦略論を簡単に図示したものです。縦軸に顧客が感じる価値、横軸に顧客の獲得コストをとると、価値とコストの関係は、両者の積が一定となる双曲線を描きます。この双曲線上で、価値軸に軸足をおいたものが差別化(スマート)戦略であり、コスト軸をつきつめたものが低コスト(リーン)戦略です。ポーターによれば、この両極の立ち位置は勝ちパターンとなりますが、中途半端な立ち位置では、価値もコストも優位性が得られず、等価双曲線上から落ちこぼれるというのです。

 家電小売店を例にとれば、基本戦略にコストを据えている代表的な企業がヤマダ電機です。同社は、家電メーカーから安値で仕入れて低価格で販売し、価格に敏感な消費者を取り込んでいます。

 その対極ともいうべきモデルが、アップルの直営店「アップルストア」です。消費者が自社製品に触れて、その魅力を体感させることを目論んでいます。価値は価格の安さではなく、他社にはない体験価値を提供して差別化するやり方です。

 しかし、いったんこのような勝ちパターンが確立すると、他社も追随を試みます。たとえば家電量販業界は、合従連衡によって強大な購買力をテコにしてヤマダ電機に対抗しようとしています。ただし、低コスト化への規模の追求は体力勝負となり、同質な安値競争の泥仕合に陥ってしまうおそれがあります。

 一方、「アップルストア」のようなアンテナショップは、ソニーやパナソニックなども海外の主要市場で展開しています。しかし、自社ブランドでの店舗展開はコストが高くつき、かつ、量販店に比べると大きな売上げも期待できないというジレンマも抱えています。