パンツ型紙オムツを半値にするというのは、まさにイノベーションである。半額になったパンツ型紙オムツが、日本をはじめとする先進国で爆発的に売れるかどうかはまだわからない。しかし、先進国でも、デフレ基調のもとで、いいものをより安く求める傾向が高まってきている。資生堂などが、「マス」と「プレステージ」の間ということで「マステージ」と呼んでいる中間層だ。新興国でMOP市場向けイノベーションを仕掛けるスキルや経験は、先進国でのマステージ攻略にも活かすことができるはずだ。このように、リバース・イノベーションを梃子とした学習優位を確立できれば、次世代成長のエンジンがグローバル規模でフル回転し始めるはずだ。

「イノベーターのジレンマ」に打ち勝つためにも、そして、「リバース・イノベーション」を仕掛けるためにも、新興国のMOP に照準をあてたイノベーションが、ますます重要になってきている。そのためには、きめ細かく、泥臭いことを現場でやり続けることが決め手となる。日本で鍛え上げたこのオペレーション力を、新興国市場で、いかにゼロベースで再構築できるか。この課題に真摯に向き合うことで、オペレーションをお家芸とする多くの日本企業が、事業モデル構築力と市場開拓力を兼ね備えたタイプX企業へと変身できるはずだ。

「そこまでやるか」までやる
徹底した現場主義

 現地のニーズを探るために、地元に密着した部隊を送り込むことが、ユニ・チャームのアジア攻略の定石である。オムツ以上に印象的なのは、生理用品に関して、顧客の使用実態を探るために、公衆トイレを回ったという話だ。

 使用後の生理用品を集めてわかったのは、非常に長時間使われているという実態だった。 女性の社会進出が進むとともに働く女性が増えている中で、多くの女性がバスでの長距離移動を強いられている。また、1日に何度か交換するだけの経済的余裕もなく、できる限り長く使おうとする傾向がある。そのため、女性自身も、漏れや匂いに非常に敏感になっており、生理用品の機能性に注目していることがわかってきた。

 日本とは違った地元ならではのニーズがつかめれば、あとはそれに応えるだけ。特に新しい技術が必要になるというよりは、どれだけ安く、求められている高機能の商品をつくれるかが勝負になる。

 地元に密着した部隊は、現地の潜在ニーズを掘り起こしてそれを商品開発に活かすだけではなく、販売の面でも、地元ならではの特徴をつかもうとする。

 たとえば、生理用品やベビー用品の商品パッケージといえば、女性に好かれるピンクが主流。しかし、ユニ・チャームは、あえて黄色を選んだ。東南アジアやインドでは電力事情が悪く、照明が暗い店舗が多く、黄色が一番目立つからだ。停電は日常茶飯事だが、薄暗い店頭でも黄色なら探しやすい。

 生理用品にしても、紙オムツにしても、すぐに見つかるものが選ばれる傾向にある。特に子ども連れの女性は買い物に時間をかけたくないため、目につきやすい黄色のパッケージは効果覿面だという。

 筆者は、たまたま訪れたインドのスーパーで、ユニ・チャームの現地スタッフに遭遇した。日本で、家電メーカーの販売員を家電量販店で見かけるのと同じ光景だ。

 スーパーの買い物客ににこやかに声をかけながら、黄色いパッケージを一番よく見えるところにきれいに並べている。思いがけないところで日本流の「おもてなし」の現場に遭遇して、ユニ・チャームの現場主義の徹底ぶりに舌をまいた。