働く人にとって理想の会社とは、どのような企業だろうか。従業員にやさしい企業か、雇用が安定している職場か、それとも成長が実感できる職場か。ハーバード・ビジネス・レビューの編集長が最新号の特集テーマについて語る。
最新号の特集テーマは「理想の会社」ですが、理想の会社など存在しないと思っています。「隣の芝は青い」ではないですが、傍からどんなに素晴らしい会社に見えても、その経営者に話しを伺うと課題ばかり口にされます。逆に「うちの会社は理想的」という経営者がいたとすれば、逆説的に、問題発見能力に欠けた、問題のある会社ということになるでしょう。
先日も、あるグローバル企業の経営者に話しを伺ったところ、「業績向上が何年も続いているので、修羅場を経験している人材が減っているのが心配」と仰っていました。何とも贅沢な悩みに聞こえますが、かように素晴らしい会社ほど危機感をいだいているものです。
さて特集の内容ですが、今回は働く人にとっての理想の会社を取り上げました。弊誌の読者の多くは、仕事が楽であればいいとは仰らないでしょう。もちろん、過酷な仕事を自ら選ぶという意味ではなく、少なくても「楽か、きついか」という物差しで会社の善し悪しを判断しないでしょう。
むしろ、やりがいや成長実感、あるいは自由裁量や素晴らしい仲間を仕事に求めている人が多いのではないでしょうか。もちろん個人の価値観の問題なので、何を理想と思うかの善し悪しはありません。
一方で企業が、働く人に理想的な環境を与えたいと考える動機は何でしょうか。究極的には、それは人がいきいきと働くことが、最大の成果を生み出すと信じているからに違いありません。業績向上のためというと夢がないかもしれませんが、働く人にとって悪い話しではありません。
特集1では、「夢の職場をつくる6つの原則」が紹介されています。項目だけ紹介すると、
①個人個人のさまざまな違いを尊重する
②情報を抑制したり、操作しない
③社員から価値を搾り取るだけではなく、会社も社員の価値を高める
④何か有意義なことを支持している
⑤業務自体が本質的にやりがいのあるものである
⑥愚かしいルールがない
です。いかがでしょうか、こんな職場があれば働いてみたいと思いませんか。
一方で経営者の立場に立ってこのような職場を提供しようと考えると、相当ハードルの高いことです。ついつい役職上の権限をつかって社員を動かそうとしてしまいがちです。あるいは忙しさにかまけて、一人ひとりを尊重することを忘れてしまいます。
しかしこの6項目は、単に社員に喜んでもらうがために実施するものではありません。社員に最高の仕事をしてもらい、組織として業績を最大にしたいからです。個人にとっての最高の仕事が企業にとっての最高の業績になる。これは確かに理想的です。
理想の会社など存在しないと思いつつ、この特集タイトルにしたのは、理想の会社を目指すことこそ意識してもらいたいと思ったからです。一歩でも理想に近づく。その繰り返しが見違える職場をつくるのでしょう。(編集長・岩佐文夫)