セールスの対象は個人からコミュニティに変わった

神田昌典(かんだ・まさのり)
経営コンサルタント、作家。日本最大級の読書会『READ FOR ACTION』主宰。公益財団法人 日本生涯学習協議会理事。上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)。2007年、総合誌で“日本のトップマーケター”に選出。著書は『全脳思考』『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』(以上、ダイヤモンド社)、『成功者の告白』『人生の旋律』(以上、講談社)、など多数。
情報の均衡化が変えたのは売り手と買い手のパワーバランスに留まらない。消費者間の連携がより簡単になったことで情報共有の場、すなわちコミュニティが活発に形成されるようになった。こうしたコミュニティの活性化が、セールスのあり方に変容をもたらした。
「いまやコミュニティの時代なのです」と神田氏。SNSやブログなど、さまざまなソーシャルメディアを通じて、瞬時に情報は共有される。その影響力は昨今のニュースでも大きく取り上げられ、個人の発信力が強まっていることは明白である。発信した内容はまた別の個人に共有され、そうしてコミュニティが形成されていく。バーチャル・コミュニティはいとも簡単につくられるのである。こうしたコミュニティの力は侮れず、社会に対して強い影響力を持っている。実際、コミュニティから拒絶されたことで痛い目を見た企業も多くある。
すべての人は現代社会において何らかのコミュニティに属しており、効果的なセールスを行う上で、コミュニティの力は無視できない。コミュニティに受容されなければ、そこに属する個人にも受け入れてはもらえない。
実はすべての人がセールスを行っている
それゆえ、コミュニティ時代のセールスには、外発的に人を動かすのではなく、内発的に人に動いてもらう、という意識の転換が求められる。それが「売らない」セールスである。
「営業を仕事にしている人は10人に1人の割合で存在しています」とピンク氏はデータを紹介する。「しかし残りの9人も、実は意識せずにセールスを行っているのです。」
ピンク氏によれば、セールスとはいわゆる販売行為だけを指すものではないという。自分の考えを伝え、他人の反応を求める行為はすべてセールスであり、人に何かをお願いして協力を得るといったような、我々が日常的に行っている活動も「売らない」セールスだという。つまり、セールスを広義に捉えた場合、すべての人はセールスパーソンと言えるのだ。そして人々は1日の4割を、この「売らない」セールスに費やしているという。
「売らない」セールスにおいては、いかに相手が受け入れやすい形で影響力を発揮するかがカギとなる。次回は影響力を発揮するために必要なものとは何か、影響力を強めることで何が得られるのかを明らかにする。
(つづく)