近年目覚ましい成長を遂げているブラジルで、企業の採用担当者は一様に悩みを抱えているという。優秀な女性人材の多くが公共部門を志望しているということだ。これには待遇の差のみならず、文化的な要因もあるという。
きっとボサノバのせいに違いない。何十年も前から、ブラジル女性と言えば「背が高くて日焼けしていて、若くてかわいい」――ヒットソング『イパネマの娘』の一節が思い浮かぶ。しかし近頃では、「イパネマの娘」はビーチをうろつくのではなく、自分のキャリアを切り開こうとしている。
世界第6位の経済大国へと変貌を遂げたブラジルでは(2011年時点)、一世代前には想像もできなかった豊富な教育機会や職業機会がもたらされている。ユネスコの調査によれば、100万人を超える大卒者のうち女性は60%を占め、男女間の成績の差(女性のほうが高い)では、他のBRIC諸国(ロシア、インド、中国)およびイギリスとアメリカをしのぐ。センター・フォー・ワーク・ライフ・ポリシー(CWLP)の新しい調査報告“The Battle for Female Talent in Brazil”(「ブラジルでの女性人材獲得競争」)によれば、調査対象者の半数以上が家族で初めての大卒者である。そして素晴らしいことに、そのうち31%が大学院の学位を取得している。
「労働市場への参入者、そして自社の人材充実を考えた時、女性人材の確保が競争上の優位となるのは言うまでもありません」と語るのは、ブラジルのゴールドマン・サックス銀行社長、バレンティノ・カルロッティだ。
しかし、ブラジル企業のヘッドハンターには悩みがある。原因は成長国における熾烈な人材獲得競争だけではない。これほど大勢の有能な女性たちが、民間企業に対して冷たい態度を取るのだ。CWLPの調査によれば、高学歴のブラジル人女性の65%が公共部門での仕事を切望し、その割合は他のBRIC諸国よりも圧倒的に高い。ブラジル企業を就職希望先のトップに挙げた女性は49%しかおらず、39%はアメリカに本社を持つ多国籍企業で働くことを望んでいた。
回答者が挙げた理由はどれも、権限や名声、やりがいのあるプロジェクト、昇進などとはほぼ無関係であった。大いに関係があったのは、雇用の安定性、手当、ワーク・ライフ・バランスだった。雇用の安定を重視すること(79%が優先事項の第1位に挙げた)は、それほど遠くない過去に3桁のインフレを経験し、相次ぐ好況と不況の波を経験してきたこの国では驚くことではない。公務員の給料は民間ほど高額ではない。しかし、世界有数の恵まれた年金制度を持つこの国では、公務員は満額の給与を受け取って退職し、その後も現役の給与とほぼ同額の年金を受け取ることができる。