「ムーンショット」とは、未来から逆算して立てられた、斬新な、困難だが実現すれば大きなインパクトをもたらす「壮大な課題、挑戦」を意味する言葉だ。いまこそ「ムーンショット」を掲げるイノベーターが待望されている。


 50年以上前、アメリカ大統領のジョン F. ケネディは次のように述べて、世界の夢をふくらませた。「我が国は目標の達成に全力を傾ける。1960年代が終わる前に、月面に人類を着陸させ、無事に地球に帰還させるという目標である」

 こうして、ムーンショット(月ロケットの打ち上げ)という言葉は、「困難な、あるいは莫大な費用のかかる取り組みで、実現すれば大きなインパクトが期待できるもの」を意味する用語となった。

 この言葉が最近、ビジネス界で再び流行している。グーグルのムーンショットには、ドライバー不要の自律走行車やグーグルグラスなど、発展性のあるプロジェクトが含まれる。また、ヤフーCEOのマリッサ・メイヤーはワイヤード誌の記者の質問に答えて、同社のムーンショットは「すべてのインターネットユーザーのために、すべてのスマートフォン、すべてのタブレットに、ヤフーが毎日存在すること」と述べた。

 企業はそれぞれにムーンショットを持つべきだ。ムーンショットは、我々が「未来からの逆算」と呼んでいる戦略アプローチの要となる。

 このアプローチは、ほとんどの戦略策定プロセスで用いられる「現在を起点とした前進」――明日は今日とほぼ似たようなもので、その後の未来もほとんど同じである、という前提に立つもの――とは異なる。安定した時期であれば、現在地点から将来を見通すアプローチは資源配分の最適化に貢献する。しかし、変動の激しい時期にこれを行っていると、市場の重要な転換点を見逃すことになる。

 未来から逆算するプロセスの中心には、自社の望む未来像についてのコンセンサスを据える。

 これは未来のさまざまな可能性について考えるシナリオ・プランニングではない。例えるなら「地面に杭を打つ」ことである。つまり、未来に中核事業がどのような状態であってほしいか、どの隣接市場に参入したいか、そのためにどんなムーンショットに挑戦するのかを特定することだ。そしてケネディが示したように、未来からの逆算は、企業戦略の典型である3年間という展望期間を大きく上回るものである。