優れたムーンショットには3つの要素がある。

 1つ目は、人を魅了し、奮い立たせるものであること(inspire)。ケネディの言葉は士気を高揚させる。企業目標にありがちな、「投下資本利益率を13.4%から13.9%に伸ばす」といったものでは、あまり気分は高まらない。この種の財務目標は重要かもしれないが、桁はずれなことを達成させるよう従業員を突き動かすものではない。

 2つ目は、信憑性だ(credible)。ムーンショットを、単なる非常識で過大な目標だと見なすことは簡単だ。だが、ケネディは演説を行う前に、ジョンソン副大統領に命じて基礎となる技術トレンドを詳細に調査させ、目標達成の可能性があることを確認している。

 3つ目は、創意あふれる斬新なものであること(imaginative)。ムーンショットは、今日起きていることをただ延長したもの(ケネディの例で言えば、「宇宙に向かってより遠くに飛ぶ」など)ではない。過去からの意義ある断絶が欠かせない。

 グーグルのムーンショットは、これらの特徴に当てはまると思われる。たとえば、自律走行車を考えてみよう。広告の販売が中核事業である企業としては、確かに斬新な戦略だ。人々を魅了するのも間違いない。そして、技術の発達によって次世代には大量導入されているだろうと信じるに足る、多くの根拠がある。

 一方、メイヤーの目標はヤフーにとってはよいものである。だが、同社を世界で最も革新的な企業の1つであった絶頂期に戻そうとするのであれば、もっと斬新で人を魅了する挑戦を掲げる必要がある。公正を期すならば、メイヤーの発言は記者からの質問に対するとっさの答えであり、事前に準備されたものではなかった。彼女がこれ以上の目標を密かに準備していることを願いたい。

 今日のイノベーターには大胆さが足りないと、少なくとも何人かは考えている。ペイパルの共同創設者であり、シリコンバレーを代表する投資家のピーター・ティールは次のように言う。「空飛ぶ車が欲しかった。でも、手に入ったのは140文字です」

 ツイッターは間違いなく役に立つサービスだが、誰もそれをムーンショットだとは思わない。信憑性、魅力、斬新さを兼ね備えたムーンショットを持つイノベーターは、まだティールの夢を実現させてはいないのかもしれない。

原注:本記事は、イノサイトの共同創設者兼シニア・パートナー、マーク・ジョンソンとの共同執筆である。


HBR.org原文:What a Good Moonshot Is Really For, May 14, 2013.

 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。