本誌2014年1月号(2013年12月10日発売)の特集は、「人を動かす力」。目的に応じた個別具体的な影響力の活用法から、より普遍的な影響力の本質までを取り上げている。HBR.ORG関連記事の第1回は、アイデアに影響力を持たせるガイドラインについて。自分のアイデアで人々に影響を及ぼし、世の中を変えるのが「アイデア・アントレプレナー」だ。アイデアを世に問う際に、まず自問すべきことは何か。ベストセラー『なぜ高くても買ってしまうのか』の著者、ジョン・ブットマンが説明する。
私の若いクライアントであるジュリー(仮名)は、ある使命に尽力していた。だいぶ前から温めているアイデアがあったが、最近になって、それを“上場”しなければ――つまり世間に公表して広めなければ、何の影響も及ぼせないことに気づいた。
ジュリーによれば、世の中には賢くて才能がありながらも、恵まれない子どもたちが大勢いる。彼らはいろんな理由で正規の教育システムから締め出されているため、潜在能力を発揮することなく生きるというリスクに直面している。これらの忘れられた子どもたちが自分の潜在能力に気づけるよう、彼らに目標や夢の達成に向けた実用的なガイダンスを提供したい――。ジュリーはこう考え、熱心に取り組んでいる。まずは、いくつかの教育関係の団体や協会に対して、このテーマでスピーチを行った。アイデアがさまざまなコンテンツで取り上げられるようになった今、もう1段階上に進み、ムーブメントを起こしたいと考えている。
彼女は私に次のように尋ねた。「アイデアを広めるために、やるべきことは何でしょう? ブログやツイッター、それとも本の執筆でしょうか? もっと調査を行うべきですか? TEDxに挑戦するとか、セミナーを開けばいいでしょうか? あるいは、これらを複数組み合わせるべきですか? その場合はどんな順序でやればいいでしょう?」
要するにジュリーは、私が呼ぶところの「アイデア・アントレプレナー」になりたいと考えている。つまり、強い信念に基づくアイデアを持ち、それを中心に一連の取り組みを展開する人だ。彼らは人々の考えと行動に影響を及ぼすことで、組織やシステムに何らかの変化をもたらすことを目指す。
アイデア・アントレプレナーになりたい人は、世界中のあらゆる企業や教室やコミュニティにいる。あなたもそういう人を知っているだろう。あなた自身がそうなのかもしれない。しかし、影響を増幅させる強大な手段を持っていないため(それを持つ人はほとんどいない)、世間にひしめく幾多のアイデアを押しのけ、自分のアイデアに注目してもらう方法はないものか、と思案していることだろう。さて、何から始めればいいのか。
アイデアを公表するということは、つまりはあらゆるアイデアが行き交う「アイデアプレックス」(ideaplex)に加わることだ。魅惑的だが不安定なこの場所では、動画がクチコミで瞬時に広まり、TEDの名声がもてはやされ、日々膨大な数の著者が本を発表し、IDEOのような企業がアイデアの創出をビジネスにする。ジュリーが模索したアイデア普及の手段は、正しいものだった。ブログやツイッター、調査、スピーチを、たくさんやるべきなのはたしかだろう。しかし、以下の問いに対する答えを出さない限り、どれも十分な効果はないはずだ。