中国の成長が限界を迎えている要因として、ブランディングとマーケティングの能力不足を挙げる声は少なくない。問題の核心と今後の展望を、ブランド論の大家アーカーが分析する。


 ニューヨークタイムズ紙の最近のコラムに、デイビッド・ブルックスは次のような記事を書いている。アメリカは中国との競争において、明らかに優位な点が1つある――それはブランディングだ。アメリカ企業の推進力となっているのは、「作家になり損ねた変わり者たち」(ブランド・ポジショニングやその実行が得意な、広告代理店やコンサルティング企業の人々のことだろう)や「先見性のある創業者」(スティーブ・ジョブズなど)であり、彼らによって卓越したブランドがつくられてきた。そうした人材は、「企業がビジネス取引を相互関係ではなく、売買として見ていることが多い」中国市場にはいない、とブルックスは言う。この見方は重要だ。一部の中国企業は、グローバルな競争を制するためのあらゆる能力を備えているように思われるが、ブランディングとマーケティングは例外だからである。

 ブランドやブランド戦略を長年見てきた者として、私はブルックスの言っていることは正しいと思うが、分析は不十分だと思う。ブランドセンスのある人材の不足は、ブランドに関する中国企業の唯一の課題でもなければ、1番の課題でもない。それにブルックスは、最大の関心事にも触れていない。つまり、中国企業はこの欠点をいつ、どのように克服するのかという点だ。

 少なくとも、中国のブランディングに関わる重大な弱点は3つある。第一に、他国のグローバル企業には、熟練のブランド戦略家人材が充実し、ブランド・マネジメントの多様なシステムとツールが豊富にある。これらは中国企業にはないものだ。それらのシステムとツールは、75年前にP&Gが初めて取り組み、同社のその後の世代が広めたブランド・マネジメントをほぼベースにしている。ブランド・マネジメント手法は、さまざまな視点と背景を持つ見識ある人々によって、何十年もかけて開発され、検証され、磨き上げられてきた。数人の秀でた戦略家や天才的な創業者やその魅力的な物語の力だけで、こうした人材やブランド構築能力が培われたわけではないのだ。

 第二に、中国企業には、これまでブランディング能力を開発する動機があまりなかった。その理由として、トップ企業のほとんどが、ブランディングが重要となる競争環境に置かれていなかったことが挙げられる。中国移動(チャイナモバイル)や中国銀行を含むトップ企業の多くは、現在またはかつて国有企業であり、何らかの政府援助を受けて繁栄してきた。さらに、多くの産業は高成長に恵まれたがゆえに、重要なのは製造と販売であり、ブランディングではなかった。加えて、中国の巨大企業のほとんどはB2Bプレーヤーとして競争することに満足しており、そこではブランディングを行なう明確な意味がない。今後、競争環境の変化は起こるだろうが、そのスピードは遅いだろう。