第1回「勇気を出して思いを語れ」は、またたくまに大きな話題を呼んだ。『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』 やビジネス各紙のコメントで有名な佐々木氏の連載、第2回はあのオリンピック東京招致スピーチ成功の要因を分析する。
思わず動きたくなる、協力したくなる。人々の内なる動機を刺激して、そんな思いを抱かせ、行動に駆り立てるためには、どうすればいいか? その秘訣を探るには、オリンピックの東京招致を成功に導いた、チームジャパンのプレゼンテーションが参考になります(動画はこちら)。
IOC評価委員会のメンバーに、マドリードやイスタンブールではなく、東京に投票してもらうためには、
①なぜ東京が最適なパートナーなのかという、論理の訴求
②東京を応援したいと共感してもらうための、感情の訴求
③東京は間違えなく期待に応えてくれるという、信頼の訴求
が必要でした。チームジャパンのプレゼンテーションは、これら3つの要素をしっかりと満たしていました。
IOC総会では、高円宮妃久子さまを含めて、8名のメンバーがプレゼンテーションを行いました。すべてのメンバーが、それぞれの持ち味を活かした素晴らしいスピーチを行いましたが、チームジャパンの真価は、その全体性にありました。8名の話が、全体として1つの完璧なスピーチとなっていたのです(図表参照)。
核となるメッセージは何か
効果的なスピーチは、明確なメッセージがあり、その主張がしっかりとした構成で支えられています。これが論理を感じさせる基盤となります。そして、感情を揺さぶり、信頼を感じさせる要素が随所にちりばめられています。実体験をありありと描くストーリーや、意志を語り、未来像を描くビジョンが、そうした役割を果たします。
まず、メッセージについて見ていきましょう。チームジャパンがIOC評価委員会のメンバーに投げかけたメッセージは、次のようなものでした。
「東京はIOCの最適なパートナーだ。まず、資金とスポーツの両面でオリンピック・ムーブメントを成功させる準備がある。そして、大会を確実に成功に導く都市の実力がある。さらに、グローバルなビジョンを持って、オリンピックの価値を世界に広めていく意志がある」。
このメッセージは、主張が明確であるとともに、相手の立場に立ったものでした。東京の良さを一方的に伝えるのではなく、IOC評価委員会のメンバーの期待に沿っていました。