DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー1月号(12/10発売)の特集は「人を動かす力」。リーダーシップやプレゼンテーションなど人に影響を与えるにはさまざまなやり方があるが、とりわけいま、スピーチが注目を集めている。『思いが伝わる、心が動く スピーチの教科書』やビジネス各紙のコメントで有名な佐々木氏が、全4回の連載で、スピーチの要諦を紹介する。

 

スピーチは、あらゆるビジネスパーソンに必要

佐々木 繁範
(ささき・しげのり)

ロジック・アンド・エモーション代表。 1963年福岡県北九州市生まれ。1987年に同志社大学経済学部を卒業後、日本興業銀行に入行。1990年にソニー株式会社に入社。盛田昭夫会長の直属スタッフとして企業外交を補佐、その間にスピーチ・ライティングを学ぶ。1995年から97年までハーバード・ケネディ・スクールに留学、公共経営学修士号を取得。帰国後、2001年まで出井伸之社長の戦略スタッフ兼スピーチ・ライターを務める。2009年に経営コンサルタントとして独立。ホームページはこちら。著書に『思いが伝わる、心が動くスピーチの教科書』(ダイヤモンド社)がある。

 皆さんは、スピーチと言えば、経営トップなど、一部の人たちだけのものと思っているかもしれません。しかし、スピーチ力は影響力の源泉であり、あらゆるビジネスパーソンにとって不可欠なスキルです。スピーチは世界を変える力を持っているのです。

 身近な例としては、先のオリンピック東京招致を成功させたチーム・ジャパンのプレゼンテーションが挙げられます。東京での五輪開催が現実のものとなり、驚いた方が多いのではないでしょうか。長い年月をかけたIOCへの地道な働きかけがあったのはもちろんですが、最終プレゼンテーションで感動を届けることができなければ、東京がイスタンブールやマドリードに勝つことは難しかったはずです。

 ビジネスパーソンにとって、戦略を立て、実行に移すとき、組織のメンバーにその内容を伝えることが、最初の一歩となります。その際に、イントラネットや小冊子などの情報メディアを用いることも可能ですが、それだけでは、戦略の背後にある思いを届けるには限界があります。メンバーと対面し、直接、言葉で語りかけることを通じて初めて、思いを伝え、行動のためのエネルギーを引き出すことが可能となるのです。

 驚くような新商品で世界を変えたり、絶体絶命の危機に瀕した組織の変革に成功したりした経営者は皆、強力なスピーチ力を備えています。ジャック・ウェルチ氏、スティーブ・ジョブズ氏、カルロス・ゴーン氏はご存じの通りです。最近の例では、JAL再生を果たした稲盛和夫氏、富士フィルムの事業構造転換を成功させた古森重隆氏もしかりです。

 このように、スピーチは、人や組織に望ましい影響を与えるための強力な武器であり、あらゆるビジネスパーソンにとって必須のスキルと言えるのです。