誰もがリーダーシップが必要とされる時代になり、「人を動かす力」はすべての人に求められる。人はツールで動かされるものではない。どんな資質が必要か、どのようなメッセージが人の心に響くのか。ハーバード・ビジネス・レビューの編集長が最新号の特集テーマについて語る。
会社内での私の立場から言うと、今号の内容ほどやりにくいものはありません。編集部では皆が分担して論文の編集をしますが、ほとんどの編集者がほとんどの記事に目を通しています。今号の「人を動かす力」で書かれた内容も、私の部下はすべて読んでいる。これがやりにくさの原因です。
たとえば「温かいリーダーか、強いリーダーか」という論文が掲載されています。これはリーダーに必要な資質として「温かさ」と「強さ」を挙げ、それぞれの効果と使い分けを紹介したものです。非常に参考になる論文で、「自分は強さを出し過ぎていたかも、もっと温かさが必要だな」などと腑に落ちる内容なのです。ところがこれを実践しようとした場合、編集部の皆はこの論文を知っている。温かさで迫ろうものなら「あ、編集長は『温かい人戦略』で来たな」と思われてしまうのが想像できてしまいます。
この論文に限らず、弊誌はリーダーの指南書であり、リーダーとしてやるべきこと、やってはいけないことが毎号書かれています。しかも、「グローバルで通用する、社会を動かす」リーダーとしての資質ですから、要求されるレベルは相当高い。ですので、うちの編集部は「優れたリーダーシップとは何か」を(少なくとも知識としては)相当熟知しているメンバーの集まりなのです。
このような強者を率いる身は本当につらい。こちらもリーダーシップの知識はあっても、「知識」と「実践」の間にそびえたつ壁がいかに高いか――これは皆さんもお分かりだと思います。ただし「知識を身につけても実践できるとは限らない」と開き直るのは弊誌の存在価値を否定するようでできません。ここは、①「編集者」という言葉で逃げる、②自意識過剰にならないこと、③自ら知識を実践し試してみる、のいずれかでしょうが、①を選ばないようにだけは心がけています。つまり勇気を出して自分の成長のため実践するか否かを毎号問われるのです。
今号は辛い内容だったということは、リーダーやリーダーを目指す人にとってかけがえのない内容の集まりだったということです。ダニエル・ピンク氏へのインタビューや瀧本哲史さんによる論考などは示唆に溢れ、きっとリーダーとしての世界観が変わるでしょう。
もちろん、あなたの部下が読む可能性も否定できません。しかし、ここはさらなる成長のために、読後に勇気をもって実践していただきたい内容ばかりです。どうぞお試しください。(編集長・岩佐文夫)