●自分の習慣や癖について、掘り下げて考える
 エイミーの自信や落ち着きが増し、私への信頼も高まった頃を見計らって、なぜ手で顔を覆うのかを尋ねた。そして、彼女の育ちの背景にある伝統的なアジア文化の諸要素――たとえば、目立たず謙虚であることをよしとする価値観など――について話し合った。彼女はまた、男社会の中で働くうちに女性らしさを捨てようとしていた自分に気づいた。その後も彼女のアイデンティティについて共にじっくり考え、やがて彼女はどうしたら自分らしさを外見や振る舞いで表現できるかを試し始めた。このような1対1やグループでの内省的な対話を通して、恐怖心と向き合い、勇気を持って新しいことを試せるようになる。

●助けを借りて練習する
 プレゼンスの訓練中であることを同僚やメンターに知ってもらうことで、スキルと自信を強化できる。よりオープンになったエイミーの様子に気づいたブルースは、フィードバックを与え、それが彼女の進歩に勢いをつけた。彼は次第に、社内でより大勢の聴衆を相手に話す機会をエイミーに与えていった。

●聴衆と駆け引きをせず、絆をつくる
 聴衆を前にしてプレゼンスを維持するのは、楽なことではない。エイミーも最初は、人前で話すことが苦手だった。自分の姿を動画に撮り、強調したり間(ま)を取ったりするために呼吸を使う練習をした。人々の興味を引き心をつかむ話をすることで、聴衆とつながることができるようになった。また、マインドフルネスによって頭がクリアになり、戦略的に思考できるようになった結果、より効果的に影響力を及ぼせるようになった。次第に彼女は、グループとのやりとりを楽しめるようになっていった。

●動じない
 プレゼンスの基本は冷静さを保つことだが、多忙な幹部には難しい注文だ。心の平静を維持するために、エイミーは呼吸を不安のバロメーターとして意識することを覚えた。そして明快さや人間関係を損ねることなく、意図的にテンションを高めたり落ち着いたりできるようになった。慌てたり衝動的になることは、もうなくなった。自身の領域をわきまえ、横槍に対処し、プレッシャーの中でも考える時間を確保できるようになった。

 数カ月後、コーチングを締めくくるためにブルースとエイミーに会った。「5センチとお願いしたのに、50センチ伸びましたよ!」とブルースは言った。以前のエイミーなら、こんな言葉を聞いたら恥ずかしさで萎縮してしまっただろう。しかし彼女は慌てることなく、優雅な笑みで我々に感謝を述べた。


HBR.ORG原文:Developing Executive Presence December 6, 2011

 

ジョシュア・エーリック(Joshua Ehrlich)
リーダーシップと組織変革の専門家たちで構成される国際的ネットワーク、グローバル・リーダーシップ・カウンシルの創設者。